君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

それから、一週間後にりょうさん…如月先生の診察を受ける。
佐久間先生の思惑通り仕事の早い彼は既に角膜提供者を見つけ出していた。守秘義務の為提供者の情報は乏しく、ただ日本人の女性で歳も近く適合性も良いという…。

どのように亡くなりどういう経路を経て角膜提供をしてくれたのか…細かな内容は伝えては貰えなかった…。

だけど、同じくらいの年齢の女性がこの世からいなくなったという事実。その悲しみの中で角膜提供を決断してくれた家族の決意…。

沢山の人の思いを背負いこれから手術が行われる。

入院は3日後…心の準備が、とか…他に適合者がいるんじゃないか、とか…長期で休む事の仕事の心配も…逃げ出したくなる気持ちが湧き上がってくる。

「松原さん。このまたとないチャンスを取り逃さないで下さい。適合者がまた次現れる保証なんてないんです。怖がらないで、僕に全て任せて。」
りょうさんが如月先生の顔をしてそう言って私を安心させた。承諾書のサインの際に手が止まり、震えてしまった私の手をぎゅっと握り締めてくれた。

「先生に全てお任せします。どうぞよろしくお願いします。」
私は頭を下げて診察室を後にした。

そしてその日の夜、彼に電話をかける。
『手術が終わるまで、プライベートで連絡を取るのはやめたいと思います。』そう伝えた。
『分かった…。』と、それだけ言って彼は電話を切った。

本当は不安で心細い気持ちを誰よりも支えて欲しいと思うけれど、彼は主治医だから。

いろいろな事情を挟むのは他の患者様にも悪いし、何よりも一切の特別扱い無く、一患者として向き合ってもらうべきだと思った。

一時的ではあるけれど、あの温かな温もり、揺るがない自信、優しい声に、守られている安心感…全てを手放してしまったような、孤独と寂しさですでに恋しくなって1人涙する。

大事をとって2週間ほど仕事を休む事にした私は、入院までの3日間は仕事に没頭した。

そして今日、ついに入院となる。

いつも仕事で通っていた道のりなのに緊張感を感じる。このタイミングで怪我をしたり、事故になんて遭ったりしてはいけないとやたらと慎重になる。

道を歩く時、階段を登る時、電車に乗り込む時、今までにないほど注意を払って神経を費やした。

病院に着いて一通りの手続きを終え、個室に通されやっとホッとした。

もう後にはひけない。

個室は思ったよりも広くて、応接室のような大きなソファにテーブル、ベッドさえもホテルのようだった。

元々は4人部屋を希望したのだけれど…
あいにくこの部屋しか空きがなくて…入院費は変わないからと、半ば強引に通された。

もしかしたら…もしかしなくてもりょうさんが手配したのでは…?

と思うけど、自分から突き放してしまった手前、声をかける事も連絡を取る事も出来ない。

会いたい。無性に会いたくて…
彼の事を思うだけで涙が溢れてきそうになる。