全てが整いりょうさんが待つ居間へと、奥様が私の手を引き連れて行ってくれた。
浴衣に慣れない私は転ばないよう慎重に、そろりそろりと長い縁側を歩く。
「お待たせしました。千紗ちゃんとっても綺麗になったわよ。」
しばらく歩くと奥様が立ち止まり、居間らしき引戸を開ける音がする。
一瞬の沈黙の後、
「これはまた…似合うねー。
いや、たまげたな。着るもの一つこんなに艶っぽくなるんだな。」
佐久間先生の盛大なお世辞を頂き、私はただ恥ずかしく照れ笑いする。
「おい、りょう君!これはオチ落ちしていられないぞ。誰かに掻っ攫われないように十分注意した方がいいな。」
私はというと、先程から一言も発しないりょうさんの反応だけが、やたらと気にかかる。
これは…浴衣に着せられてる感じなのではないだろうか…。
恥ずかしくなって俯いてしまう。
「ヤバいな…。」
ポツンとりょうさんがそう呟いて、
えっ⁉︎
どう捉えれば…いいの?悪いの⁉︎と、私は分からず瞬きを繰り返す。
「もっと、何か気の利いた言葉はないの?うちの男達ときたら、まったく…これだから…。」
奥様が呆れたように言う。
「どうする?
この後どこに連れて行くつもりだ?浴衣に合う店なんて…ここら辺じゃ思いつかんぞ。」
自分の事のように佐久間先生がソワソワし始める。
「いや…いつもの洋食屋に行こうと思ってただけなんですけど…。」
りょうさんの答えに、
「それは無いわ。」
「それは無いぞ。」
佐久間夫妻が一斉に声を上げる。
「ほら、隣り駅側にある料亭とか…?ホテルの屋上にある日本食レストランとか…。和服が似合う場所にしなきゃ…」
奥様にそう指摘されてりょうさんは、
「俺…こんな格好なんですけど…」
りょうさんの今日の服装すら分からない私は、助け舟も出せずただ見守るしかない。
「その格好、無いわ…
せめてスーツぐらい着ないと釣り合わないぞ。」
佐久間先生にすかさずそう言われて、
「前もって教えてくれないからですよ。」
と、りょうさんは抗議し始める。
私はいつもの洋食屋で構わないのだけれど…とても2人の間に入れない状況で…
しばらく2人の言い合いを見守るしかなかった。
「まったくもう、いい大人が子供みたいに…。」
奥様は呆れてくすくす笑う。
「りょう君はいつもクールな感じなのに、千紗ちゃんの事になるとこんな風になるのね。」
と、私にこそっと話してくる。
この2人のじゃれ合いのような言い合いはいつもの事だと思っていたから、そうでも無い事を知って少し驚く。
「お二人顔を合わせるといつもこんな感じですよ?」
私がそうこっそり奥様に伝えると、
「あら、渡米して以来あまり合わなかった間に大人なになったというか、丸くなったのねー。」
まるで我が子の事の様に嬉しそうに奥様がふふふと笑う。私もつられて微笑んでいた。
「彼女に浴衣をありがとうございます。俺からも是非お礼させて下さい。」
一通り言い合いが終わったようで、りょうさんは奥様にお礼を伝えている。私もすかさず、
「私からも是非お返しさせて下さい。」
と頭を下げてお礼を言う。
「私は2人が喜んでくれたそれで良いの。ただの自己満足だから気にしないで。りょう君のも来年の花火大会には間に合うように作るから待っててね。」
「俺にも⁉︎ですか?」
一度も浴衣は来た事がないと話すりょうさんはなんだか嬉しそうだった。
奥様曰く、渡米前の彼はもっと尖っててナイフのようだったという。今とは想像出来ない話しを驚きながら聞いていた。
少し日が傾き出して西陽が縁側から伸びて、私の目でも眩しさを感じるくらいになった頃、
「千紗、そろそろ行こう。」
と、りょうさんに突然手を握られて、半ば強引に玄関へと連れて行かれる。
「すいません…今日はこれで失礼します。また、浴衣のお礼はさせて下さい。」
私は慌てて奥様にそう伝えるのが精一杯だった。
浴衣に慣れない私は転ばないよう慎重に、そろりそろりと長い縁側を歩く。
「お待たせしました。千紗ちゃんとっても綺麗になったわよ。」
しばらく歩くと奥様が立ち止まり、居間らしき引戸を開ける音がする。
一瞬の沈黙の後、
「これはまた…似合うねー。
いや、たまげたな。着るもの一つこんなに艶っぽくなるんだな。」
佐久間先生の盛大なお世辞を頂き、私はただ恥ずかしく照れ笑いする。
「おい、りょう君!これはオチ落ちしていられないぞ。誰かに掻っ攫われないように十分注意した方がいいな。」
私はというと、先程から一言も発しないりょうさんの反応だけが、やたらと気にかかる。
これは…浴衣に着せられてる感じなのではないだろうか…。
恥ずかしくなって俯いてしまう。
「ヤバいな…。」
ポツンとりょうさんがそう呟いて、
えっ⁉︎
どう捉えれば…いいの?悪いの⁉︎と、私は分からず瞬きを繰り返す。
「もっと、何か気の利いた言葉はないの?うちの男達ときたら、まったく…これだから…。」
奥様が呆れたように言う。
「どうする?
この後どこに連れて行くつもりだ?浴衣に合う店なんて…ここら辺じゃ思いつかんぞ。」
自分の事のように佐久間先生がソワソワし始める。
「いや…いつもの洋食屋に行こうと思ってただけなんですけど…。」
りょうさんの答えに、
「それは無いわ。」
「それは無いぞ。」
佐久間夫妻が一斉に声を上げる。
「ほら、隣り駅側にある料亭とか…?ホテルの屋上にある日本食レストランとか…。和服が似合う場所にしなきゃ…」
奥様にそう指摘されてりょうさんは、
「俺…こんな格好なんですけど…」
りょうさんの今日の服装すら分からない私は、助け舟も出せずただ見守るしかない。
「その格好、無いわ…
せめてスーツぐらい着ないと釣り合わないぞ。」
佐久間先生にすかさずそう言われて、
「前もって教えてくれないからですよ。」
と、りょうさんは抗議し始める。
私はいつもの洋食屋で構わないのだけれど…とても2人の間に入れない状況で…
しばらく2人の言い合いを見守るしかなかった。
「まったくもう、いい大人が子供みたいに…。」
奥様は呆れてくすくす笑う。
「りょう君はいつもクールな感じなのに、千紗ちゃんの事になるとこんな風になるのね。」
と、私にこそっと話してくる。
この2人のじゃれ合いのような言い合いはいつもの事だと思っていたから、そうでも無い事を知って少し驚く。
「お二人顔を合わせるといつもこんな感じですよ?」
私がそうこっそり奥様に伝えると、
「あら、渡米して以来あまり合わなかった間に大人なになったというか、丸くなったのねー。」
まるで我が子の事の様に嬉しそうに奥様がふふふと笑う。私もつられて微笑んでいた。
「彼女に浴衣をありがとうございます。俺からも是非お礼させて下さい。」
一通り言い合いが終わったようで、りょうさんは奥様にお礼を伝えている。私もすかさず、
「私からも是非お返しさせて下さい。」
と頭を下げてお礼を言う。
「私は2人が喜んでくれたそれで良いの。ただの自己満足だから気にしないで。りょう君のも来年の花火大会には間に合うように作るから待っててね。」
「俺にも⁉︎ですか?」
一度も浴衣は来た事がないと話すりょうさんはなんだか嬉しそうだった。
奥様曰く、渡米前の彼はもっと尖っててナイフのようだったという。今とは想像出来ない話しを驚きながら聞いていた。
少し日が傾き出して西陽が縁側から伸びて、私の目でも眩しさを感じるくらいになった頃、
「千紗、そろそろ行こう。」
と、りょうさんに突然手を握られて、半ば強引に玄関へと連れて行かれる。
「すいません…今日はこれで失礼します。また、浴衣のお礼はさせて下さい。」
私は慌てて奥様にそう伝えるのが精一杯だった。



