君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

「千紗、お弁当忘れないでね。あと、藤堂さんにパパのETCカードを渡してね。高速代やガソリン代はこちらで払いますってくれぐれも伝えてよ。」
朝から母に過保護な程のお節介を焼かれ、はいはいと千紗は曖昧な返事を繰り返す。

朝、6時前。辺りはまだ暗く人の顔もよく認識できないほどだ。そんな薄暗い早朝に藤堂からメッセージが届き家を出る。

玄関先には見覚えのある黒のスポーツカーが一台。その横には白のTシャツに茶系のチノパン、上着にはラフな紺のジャケットを羽織った藤堂が爽やかな笑顔を見せ、こちらに手を振っている。

朝から無駄にドキンと胸を高鳴らせ、千紗も母と共に彼の元に駆け寄る。

「朝早くからありがとうございます。これ、お礼と言ってはなんですがお弁当作ったので、千紗と朝ご飯に食べてくださいね。後、ガソリン代や高速代はこちらで持ちますので…。」
自らそう言って母はテンション高めに話しかけている。

「…おはようございます。よろしくお願いします。」
千紗はそんな母の事が恥ずかしくて、テンション低めのしかめっ面だ。

千紗だって、あの出会いから1ヶ月振りに藤堂に会ったのだから、どうしようもなく緊張し、心臓がドキドキと高鳴せていたのだが…。

彼は命の恩人であり、病気を良い方向に導いてくれる案内人。ただ、それだけの関係なのだから浮かれてはいけない…。

これはデートではないんだ。ただ、病院に連れて行ってもらうだけ…。
高鳴る鼓動をなんとか隠して自分を律する。

母に見送られ、藤堂の車に2人乗り込み出発する。

目的地の病院まで片道3時間半のドライブだ。
彼の貴重な休日を、自分なんかの為に無駄にさせてしまう申し訳なさを胸に抱え、千紗は助手席で大人しくしていた。

「これ…使う訳にはいかない。親御さんには悪いけど返しといて。
今日は俺のエゴだから…強いて言えば自己満足。千紗の為というより自分の為に過ぎない。」
父のETCカードを手元に戻されて千紗は戸惑ってしまう。

「いえ…でも、返されても困ります。藤堂さんには良い先生を紹介して頂いて、今日だって本来なら自分達で行かなくちゃいけないのに…。連れて行ってもらうなんて、なんだか申し訳ないんです。」

「俺が勝手に君を誘って、勝手に振り回しているだけだ。だから、出来れば病気の事を一瞬でも忘れるくらい楽しんで欲しいし、重荷に感じて欲しくない。」

藤堂は何故か今日の事を申し訳ないと思っているようで、決してカードを受け取らなかった。

「じゃあ…お礼は他の形でさせてください。こちらの気がすみませんから。」
そう言って、仕方なくカードを財布に入れる。

「今日はデートだと思って気楽な気持ちで楽しんで。」
藤堂がにこりと笑う。

「デ、デート⁉︎」
まさかの回答をもらい、千紗はつい素っ頓狂な声を上げる。藤堂はそんな千紗をハハッと笑い、頭をポンポンと撫でる。

そうなんだ…デート…って思っていいんだ。
そんな藤堂の反応にドギマギしながらも、少し緊張を解く事が出来た。

「道中、海も見えるし富士山も間近で見られる。美味しい物も沢山食べれるから観光しながら行こう。」
藤堂は車のギアを上げ、首都高速を軽快に走らせた。

車窓を少し開ければ海風に乗って潮の香りを感じる。
「海…ですか?」
千紗には遠い景色ははっきりと見えない。新鮮な朝の空気を思いっきり吸い込み、何気なく聞くと、

「レインボーブリッジに来て海を感じた事はなかったな。新鮮な気分だ。」
と、藤堂が笑う。
ここがレインボーブリッジなんだと千紗は風で場所を楽しんだ。

「あっ、お、お弁当…食べますか?」
車内に異性と2人きり。
しかも車の助手席なんて初めての千紗だから、何か少しでも役に立たなくてはと、先程から気持ちを焦らせていた。

「せっかくだから、サービスエリアに寄って食べよう。」
藤堂の提案でサービスエリアで休憩を取る事にする。