君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

前島が去った後、しばらく千紗は立ち上がる事が出来ず、如月に寄りかかったまま動けずにいた。
「抱き上げて車まで運ぶから少し我慢して。」
如月が千紗を横抱きに抱き上げて暗い病院の通路を歩く。

定時を過ぎている為職員玄関までの通路はあまり人気がなかったが、それでも誰かにすれ違ったら噂になってしまうと、千紗は焦って如月に何度も『下ろして欲しい』と訴える。

だけど如月はそれを許さず、
「誰もいないから大丈夫だ。」
と、千紗を宥めるばかりだった。

それでもと顔を隠す為、ぎゅっと如月の首に手を回して胸に顔を押し付け隠す。

それには堪らず、庇護欲が掻き立てられた如月はぎゅっと抱きしめ返した。
このままお持ち帰り出来たらどれだけいいか…。
付き合い始めたのだから、もう一歩先に進んだとしても誰も咎める事はないだろう。

だけど、誰よりも大事な千紗を少しでも怖がらせる訳にはいかない。その思いだけが如月の枷になっている。

「腹減っただろ?何か買って家で食べよう。」
千紗を車の後部座席にそっと寝かし、如月は自分の着ていたジャケットを彼女にそっと掛けた。

「何が食べたい?」
素早く運転席な乗り込んだ如月が千紗に優しく声をかけてくる。この人の声はなんでこんなに温かいんだろう…千紗は未だ貧血でふわふわした頭で、ボーっと考えていた。

「千紗、大丈夫か?このまま少し寝た方が良いな。」
貧血と睡眠不足が重なって、その上極上の癒しである如月の声で完全に安らぎの中に落ちしまった千紗は、小首をコクンと振るばかり…。

そんな千紗の頭をよしよしと撫ぜ、如月はとりあえず車を出す事にした。

それにしても…あの男…
先程のあの同僚の態度にタダならぬ空気が見え隠れしていた。
一歩遅かったら意図せず連れ去られた可能性だってあった。

そう思い如月はフーッと深く息を吐き、車を走らせる。

間一髪…いや、不覚にも千紗に触れさせたのだから遅すぎたくらいだ。その悔しさに無意識に頭をガシガシと掻く。

帰り際、突然現れた佐久間医師の無駄話しのせいで遅くなったんだと、勝手に怒りの矛先を変えてみるが怒りはなかなか治らない。

苛立ち、怒り、嫉妬…独占欲…
いろいろな感情がひしめき合って如月は頭の中がぐちゃぐちゃだった。

そんな事などまったく知らずに、千紗はスースーと寝息を立てながら可愛く眠ってしまった。

ハァー…
なんでそんなに可愛いんだ。
「…こんなんじゃ見知らぬ誰かに連れ去られたっておかしくないぞ。」

誰に言うでもなくそう呟いて帰路を急ぐ。