診察室を後にして会計が終わった頃には既に12時を回っていた。千紗は病院内のコンビニでおにぎりとお茶を買って、中庭の東家で1人お昼を食べる事にする。
久しぶりの診察でさすがに少し疲れたな、とひと息ついておにぎりを食べる。
するとどこからかコツコツと誰かの足音を聞こえて来たかと思うと、
「お疲れ様。結構待たされたみたいだけど大丈夫だったか?貧血の症状は出てない?頭が痛いとか体調は?」
りょうさんの声を聞き、目の前で気配を感じる。
「お疲れ様です。特に問題なく大丈夫ですよ。りょうさんは?あの後お仕事大丈夫でしたか?」
と千紗も心配になっていた事を聞く。
「問題ない。外来患者を早巻きするのは得意なんだ。時間内でちゃんと終了出来たよ。」
如月がそう言って千紗を安心させる。
「良かったです。看護師さんも大丈夫でしたか?結構怒ってましたけど…」
「大丈夫だよ。あの人はあれが通常運転だから。それより血液検査で貧血の傾向があったから、千紗の体調が心配なんだ。少し触診させて。」
そう言って、医者の手つきで耳下のリンパや目の下を触られる。
「とりあえず、鉄分のサプリメントとプルーンヨーグルト買ってきたから飲んで。少しでも体調が悪いなら今日は帰った方がいい。」
如月が心配症を露にして、あれやこれやとあてがわれる。
「ありがとうございます。こ、こんなにいっぱい…?」
プルーンヨーグルトの紙パックが入ったビニール袋を両手でいっぱいに渡されて、思っていた量より多くて驚く。
「これは今週分。今日から毎日飲む事。あと、寝不足気味か?少しでも休んだ方が良い。」
千紗の事ならめざとくなんでも見抜いてしまう。確かに昨夜は受診の事を考えていたせいか寝付きが悪かった。
素直にその事を伝えて、無理はしないと約束した。
「俺も一緒にいい?」
「もちろんです。どうぞ、座って下さい。」
急いで駆けつけた如月だったから、直ぐに行ってしまうとばかり思っていた千紗は、嬉しくて笑顔になる。
「ありがとう。昼食はそれだけ?もっとたくさん食べた方がいい。」
如月が千紗の昼食を確認して量の少なさに心配される。
「りょうさんは?お昼は何か買ってきましたか?」
「コンビニでカツ丼を買って来た。あと、ドーナツにゼリー。千紗に言われてから昼はちゃんと食べる事にしてるよ。これは千紗が食べて。」
そう言って、千紗のおにぎりを持っていない方の手にドーナツを渡してくる。
「ありがとうございます。
あの…実は今朝、病院内の図書室で椎名さんにお会いしました。」
「はっ…⁉︎
水曜日付けで他病院に移動した筈だが?何かされたか?」」
まさかまだ懲りずに千紗にちょっかい出したのかと、如月は渋い顔をする。
「いえ、大丈夫です。ただ、りょうさんの事を酷く言っていたので、何があったんだろうと思って。」
何がどう解決したのか知りたくて、率直にきいてみる。
「アイツのアラを探そうと思って手っ取り早く興信所に頼んで調べてもらった。そしたらいろいろ悪行が出てきたから、理事長である父親に教えてやっただけだ。」
如月はいとも簡単だったというように言ってのける。
「仮にもりょうさんの婚約者と名乗っていた人でしょ?大丈夫なんですか?」
きっと理事長もりょうさんを気に入っていた筈だから、そんな事をしてお咎めは無かったのだろうかと心配する。
「向こうが勝手に言ってただけだ。今まで誰とも婚約なんてした事は無い。
だいたい、いつも変に誤解されないように、あえて女性には冷たい態度を取ってるのに。」
何でこうも婚約者を名乗る奴が後を経たないのか…如月はそう思い、苛立ちと共にカツ丼をガツガツとかき込む。
「おモテになるのも大変ですね。」
「なんなら千紗が俺の婚約者になるか?
大々的に発表すればもう誰も近付いてくる事はないだろ。」
そうすれば千紗を奪おうとする奴等の牽制になるし、如月としては一石二鳥ではないかと本気で思うのだけど…。
「私には荷が重すぎます…。」
俯く千紗の顔は如月からは見えないが、早まったか…と内心焦る。
「いや、ごめん。浮かれた発言だった。今のは忘れてくれ。」
付き合い始めて間もない2人に気不味い空気が流れる。
しばらく2人、言葉もなく黙々と食べるしかなかった。
沈黙を打ち破ったのは千紗の方で、
「りょうさん、私…りょうさんに相応しい女性になりたいです…時間はかかるかもしれませんが…待っててもらえますか?」
千紗から思いがけず前向きな言葉をもらい、如月は手を止め千紗を見つめる。
戸惑いで俯いてしまったのかと思った彼女の表情には、決心という真っ直ぐで揺るがない熱い眼差しがあった。
「そんな風に思わなくても、既に千紗は俺の彼女なんだから堂々としていればいいんじゃないか?」
如月は浮立つ心をセーブして、そう声を抑えて言う。
「今の私ではダメなんです…。
りょうさんは本当に凄い人なので…でも、いつかあなたに相応しい人になりたいです。」
千紗の思いは先を見ていた。
目が見えたら、もっと自身が持てたらきっと…。
そう思い、食べ終わったおにぎりの袋をグッと握り潰す。
「俺さっき佐久間医師から、ポンコツっだって罵られて来たんだけど?
私生活じゃ千紗の方がしっかりしてる。俺は家事の一つも満足に出来ないポンコツだぞ。」
如月はそう自虐して笑う。
「如月先生は眼科医の名医で、立派な人です。」
なぜか千紗からそう咎められて、2人で笑う。
久しぶりの診察でさすがに少し疲れたな、とひと息ついておにぎりを食べる。
するとどこからかコツコツと誰かの足音を聞こえて来たかと思うと、
「お疲れ様。結構待たされたみたいだけど大丈夫だったか?貧血の症状は出てない?頭が痛いとか体調は?」
りょうさんの声を聞き、目の前で気配を感じる。
「お疲れ様です。特に問題なく大丈夫ですよ。りょうさんは?あの後お仕事大丈夫でしたか?」
と千紗も心配になっていた事を聞く。
「問題ない。外来患者を早巻きするのは得意なんだ。時間内でちゃんと終了出来たよ。」
如月がそう言って千紗を安心させる。
「良かったです。看護師さんも大丈夫でしたか?結構怒ってましたけど…」
「大丈夫だよ。あの人はあれが通常運転だから。それより血液検査で貧血の傾向があったから、千紗の体調が心配なんだ。少し触診させて。」
そう言って、医者の手つきで耳下のリンパや目の下を触られる。
「とりあえず、鉄分のサプリメントとプルーンヨーグルト買ってきたから飲んで。少しでも体調が悪いなら今日は帰った方がいい。」
如月が心配症を露にして、あれやこれやとあてがわれる。
「ありがとうございます。こ、こんなにいっぱい…?」
プルーンヨーグルトの紙パックが入ったビニール袋を両手でいっぱいに渡されて、思っていた量より多くて驚く。
「これは今週分。今日から毎日飲む事。あと、寝不足気味か?少しでも休んだ方が良い。」
千紗の事ならめざとくなんでも見抜いてしまう。確かに昨夜は受診の事を考えていたせいか寝付きが悪かった。
素直にその事を伝えて、無理はしないと約束した。
「俺も一緒にいい?」
「もちろんです。どうぞ、座って下さい。」
急いで駆けつけた如月だったから、直ぐに行ってしまうとばかり思っていた千紗は、嬉しくて笑顔になる。
「ありがとう。昼食はそれだけ?もっとたくさん食べた方がいい。」
如月が千紗の昼食を確認して量の少なさに心配される。
「りょうさんは?お昼は何か買ってきましたか?」
「コンビニでカツ丼を買って来た。あと、ドーナツにゼリー。千紗に言われてから昼はちゃんと食べる事にしてるよ。これは千紗が食べて。」
そう言って、千紗のおにぎりを持っていない方の手にドーナツを渡してくる。
「ありがとうございます。
あの…実は今朝、病院内の図書室で椎名さんにお会いしました。」
「はっ…⁉︎
水曜日付けで他病院に移動した筈だが?何かされたか?」」
まさかまだ懲りずに千紗にちょっかい出したのかと、如月は渋い顔をする。
「いえ、大丈夫です。ただ、りょうさんの事を酷く言っていたので、何があったんだろうと思って。」
何がどう解決したのか知りたくて、率直にきいてみる。
「アイツのアラを探そうと思って手っ取り早く興信所に頼んで調べてもらった。そしたらいろいろ悪行が出てきたから、理事長である父親に教えてやっただけだ。」
如月はいとも簡単だったというように言ってのける。
「仮にもりょうさんの婚約者と名乗っていた人でしょ?大丈夫なんですか?」
きっと理事長もりょうさんを気に入っていた筈だから、そんな事をしてお咎めは無かったのだろうかと心配する。
「向こうが勝手に言ってただけだ。今まで誰とも婚約なんてした事は無い。
だいたい、いつも変に誤解されないように、あえて女性には冷たい態度を取ってるのに。」
何でこうも婚約者を名乗る奴が後を経たないのか…如月はそう思い、苛立ちと共にカツ丼をガツガツとかき込む。
「おモテになるのも大変ですね。」
「なんなら千紗が俺の婚約者になるか?
大々的に発表すればもう誰も近付いてくる事はないだろ。」
そうすれば千紗を奪おうとする奴等の牽制になるし、如月としては一石二鳥ではないかと本気で思うのだけど…。
「私には荷が重すぎます…。」
俯く千紗の顔は如月からは見えないが、早まったか…と内心焦る。
「いや、ごめん。浮かれた発言だった。今のは忘れてくれ。」
付き合い始めて間もない2人に気不味い空気が流れる。
しばらく2人、言葉もなく黙々と食べるしかなかった。
沈黙を打ち破ったのは千紗の方で、
「りょうさん、私…りょうさんに相応しい女性になりたいです…時間はかかるかもしれませんが…待っててもらえますか?」
千紗から思いがけず前向きな言葉をもらい、如月は手を止め千紗を見つめる。
戸惑いで俯いてしまったのかと思った彼女の表情には、決心という真っ直ぐで揺るがない熱い眼差しがあった。
「そんな風に思わなくても、既に千紗は俺の彼女なんだから堂々としていればいいんじゃないか?」
如月は浮立つ心をセーブして、そう声を抑えて言う。
「今の私ではダメなんです…。
りょうさんは本当に凄い人なので…でも、いつかあなたに相応しい人になりたいです。」
千紗の思いは先を見ていた。
目が見えたら、もっと自身が持てたらきっと…。
そう思い、食べ終わったおにぎりの袋をグッと握り潰す。
「俺さっき佐久間医師から、ポンコツっだって罵られて来たんだけど?
私生活じゃ千紗の方がしっかりしてる。俺は家事の一つも満足に出来ないポンコツだぞ。」
如月はそう自虐して笑う。
「如月先生は眼科医の名医で、立派な人です。」
なぜか千紗からそう咎められて、2人で笑う。



