君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

その後は気持ちを落ち着かせる為、中庭の東家で小鳥の囀りや虫の音に耳を傾け時間を潰す。
そして10時10分前に眼科の受付へと向かった。久しぶりの検診だから少しドキドキと心臓が高鳴る。

30分程待合室で待っていると、名前を呼ばれ診察の番になる。

看護師さんに誘導されて、
「こんにちは、お願いします。」
挨拶をして診察室の中に入る。

「ごめんね。時間押しちゃって…長く待たせたね。」
そう言って佐久間医師はわざわざ立ち上がって千紗を出迎えてくれた。

するとどこからか、
「すいません。俺も一緒にいいですか?」
と、如月の声がして、えっ!?っと千紗は驚かせる。

「おいおい、仕事放棄は困るよー如月先生。」
そう咎めながらも佐久間医師は笑いながら言う。

「ちゃんと10分休憩の合間に来たんです。付き添いとして俺も立ち会います。」
既に彼の中では始めから決定事項だったようで、誰にも有無を言わさず、自分で簡易椅子まで引っ張り出して、私の近くに居座ってしまう。

「だ、大丈夫ですか…?」
千紗は慌てて如月に耳打ちするのだけど、
「問題ないよ。その為に休憩を取らずにいたんだから。」
と言ってくる。

「仕方がないなぁ。ほんとごめんね千紗ちゃん、こんな男だけど…嫌になったら直ぐ僕に言ってくれていいから。」
おおらかな佐久間医師は、父親のような目で如月を見守っている。そんな2人の関係性を千紗は自分のことのように嬉しく思った。

「大丈夫です。名医のお2人に診て頂けるのはとても心強いので。」
千紗はそう言って微笑む。

その笑顔を見た佐久間医師が、如月に目配せして揶揄う。目の見えない千紗は気づく余地もない。

まずは問診、眼圧検査、血液検査、それから屈折検査に角膜内皮細胞検査など数々の検査をして、1時間ほど時間を費やす。

如月も眼圧検査までは立ち会っていたが、看護師が煩く戻れと言って来た為、シブシブというかイヤイヤというか…珍しく感情を露わにして自分の受け持つ診察室に戻って行った。

「…アイツも変わったよね。普段は淡々としてロボットのように無感情なのに、千紗ちゃんが絡むと途端に感情むき出しになる。親父同様、仕事人間になっちまったのかと心配したけど、人間に戻ってくれて良かったよ。」
佐久間医師が千紗にそう言って聞かす。

「そんなに前から如月先生の事をご存知だったんですね。」
千紗も少し如月の生い立ちを垣間見た気がして嬉しく思う。

「アイツはきっと自分の事をあまり話さないと思うけど、長い目で待っててやってね。きっと話せる日が来る筈だから。」
佐久間医師の言葉を聞いて千紗は深くこくんと頷く。

「僕はね、アイツと千紗ちゃんはお似合いだと思ってたんだよ。あのお土産、実はお揃いで持つと縁結びの役割もあってね。僕の思惑通りになったから、御守りの効果絶大だよね。」

そんな効果があったとは知らなかった千紗は驚き、そして付き合い出してまだ数週間も経ってないのに、その事を如月が話したんだと言う事にも驚いた。

「お疲れ様、検査は以上だよ。後は1週間後に結果を聞きに来てもらって、如月先生へバトンタッチするけど、なんだかんだ勝手に立ち会ってるから再度の検査は要らないよね。
彼の仕事は早いから、既に多分、角膜適合者も探していると思うよ。」

「そうなんですね…。
角膜移植ってもっと貴重で特別な手術なんだと思ってたんですけど、先生達の話しを聞いていると、よくあるありふれた手術に思えてきます。」

今まで勝手に膨らんでしまっていた角膜移植に対しての先入観が、彼らに会って段々と変わっている。

今は…まだ軽くは聞けないけど、聞く心の準備は出来たと思う。

りょうさんは私が聞いてくるまでずっと辛抱強く待っている。優しい人だから、決して押し付けてくる事はない。