君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

「もっと実感が欲しいんだけど、キスしていいか?」
恋愛初心者の千紗は、既にこの距離感だけでいっぱいいっぱいなのに、上級者の如月は容赦なくて…

「あの…私、こういうの初めてで…こ、心の準備が…。」
千紗が蚊の鳴くような声でそう言うと、

「じゃあ、準備が出来たら目を閉じて教えて。」
と、如月が微笑む。

如月自身確かな実感が欲しいのは、自分が藤堂だって事を隠したままでいる後ろめたさで…それを今、言い出せないのは、告げた途端に嫌われてしまうんじゃないかと思う自分の弱さだ。

少しの間の後、千紗がそっと目を閉じる。

如月は欲望を抑えて、軽く3度角度を変えて唇を重ねた。

「今はこれで満足しておく。」
カチコチに固まってしまった千紗を溶かすように、そっと抱き寄せる。

如月はしばらくそのままヨシヨシと、触り心地の良い千紗の髪を梳かすように撫ぜていた。

そうしているうちに、千紗の緊張も幾分溶けたようで、
「りょうさん…私、一度如月先生の診察を受けに行ってもいいですか?」
と聞いて来る。

一瞬、どういうことか分からずに、
「どこか目に違和感があるのか?」
と、眼科医の顔になって千紗の澄んだ瞳を覗く。

「違うんです。…角膜移植の事、怖がってないでちゃんと一度向き合ってみようかと思って…。」

「…本当か⁉︎」
それには如月も目を見開き驚く。

日本に帰って来た当初の目的は、千紗に角膜移植を勧める為だった。

ただ、いざ彼女に会うと無理強いも出来ず、躊躇してしまい、怖気付いて何も言えないまま今に至る。
そんな如月にとってはまたとない相談だから、心踊るほどの喜びを覚える。

「私、漠然とでしか角膜移植の事分かっていなかったんだって、シンポジウムで如月先生の話しを聞いた時思ったんです。
何も知らないくせにただ、怖がってるだけじゃダメだって…。」
千紗の決心は揺るぎない。

「分かった、いつでもおいで。診察室で千紗が来るのを楽しみに待ってるよ。」
如月も目を細めて、彼女の勇気を賞賛する。

「ちゃんと他の患者様と同じように段階を踏んで伺いますから待っていて下さいね。」
贔屓やコネは一切いらないという彼女からの意思表示に『分かった。』と、如月は頷く。

その日は沢山の惣菜を手に帰宅した如月は、
高揚感と罪悪感が入り混じる感情を持て余し、なかなか眠りに着くことが出来なかった。