シャワーを浴びて歯を磨き、とりあえず如月先生が用意してくれたTシャツと短パンを着てみる。
Tシャツは膝上ぐらいまで隠れてしまうし、短パンは紐をぎゅっと締めてもずり落ちてしまほど大きくて、体格の差を実感して唖然とする。
まるで大人と子供くらいの違うんだ…。如月先生からみたら私なんて手のかかる子供と同じなのかもしれない。
惨め…なのか…がっかり、なのか分からない感情に打ちのめされる。
短パンを履く事は諦め、手探りでソファのある場所へ戻ろうと試みる。
ああ、そういえばお風呂場まで横抱きにされて連れて来られたから…この家の配置が全く分からない。
どこに机があってソファがあって、棚があって…私達視覚障害者は手や足の感覚で、空間を把握する。
過保護に運ばれた私は、真っ白な配置図しか持ち合わせていなかった。
勇気を出して引き戸をひく。
手を前にかざして歩き出せば、直ぐに壁にぶつかるから…きっとここは…廊下?
壁つたいに真っ直ぐ歩けばリビングに着くはず。そう判断して手探りで探りながら慎重に歩き出す。
あれ…?床の冷たさが変わった…?ザラザラしてる。足から感じる感覚で、ここは玄関タタキかもしれない…と判断する。
フローリングからの段差が少なくほぼフラットだったから気付かなかった…。
はぁーこれじゃ、振り出しに戻っただけだ。
視覚が無い世界は空間を把握するのに時間がかかる。泣きたくなるような感情に襲われその場に座り込む。
そのタイミングでガチャガチャっと玄関に音が響いて、パッと明るい光が差し込んだ。
風がフワッと吹いたかと思うと、あっという間の速さに、米俵のように肩に担ぎ込まれた?
ええっ…⁉︎
よく分からないまでも相手は如月先生しかいないから、
「お、お帰り、なさい…」
担がれながらもうそう言うと、
「…ただいま。どこ行こうとしてた?」
ぶっきらぼうに言う如月先生から何故か少しの苛立ちを感じる。
「いえ…リビングの方向を間違えたみたいで…」
そう言うと、如月先生はふーっと深いため息を吐いて、そっとソファに降ろしてくれた。
「…ごめん勘違いした。俺が居ない合間に逃げようとしてるのかと…」
流石にこの格好ではどこにも行けないよ…
降ろされた時に乱れたTシャツの裾をぱっと直す。
「なっ…!!」
如月先生から突然驚きの声がする。
「どうか…されましたか?」
不思議に思い首を傾げれば、
「あ…いや…。
やばいな…。
流石に俺のTシャツじゃデカすぎたな…と思って…。」
何故か先生が慌てている気配がする。
あれ…?また間違った?
ホテルの時のパジャマの失敗があるから、ちょっとした如月先生の反応は私を臆病にさせる。
「短パンがさすがに大き過ぎてちょっと無理だったんです。」
慌てて言い訳をしてしまう。
「いや、いい。…可愛いからそのままで。
…とりあえず、朝飯適当に買って来たから食べてから病院に行こう。
あー…ぶつけたところ、湿布貼ってテーピングだけ先にしておこう。」
今…可愛いって…?
情報力の多さに見逃してしまいそうになったけど、可愛いって…先生が私に⁉︎
聞き慣れない言葉に目をぱちぱちさせて驚いてしまう。
私の気持ちを差し置いて、如月先生はテキパキと怪我の手当てをし、歩きやすいようにテーピングまで施してくれた。
「テーピングだけじゃ痛みが引かなきゃ、痛み止めを飲んでもいいから。」
朝食のサンドウィッチと一緒に痛み止め薬を差し出される。
あの日…
思えば、あの日もサンドウィッチを食べたはず。似たようなシチュエーションであれ…?とデジャヴを感じてしまう。
思い出されるのは病気が発覚してドン底に突き落とされたあの日の事。
藤堂涼に命を救われた。
「飲み物は…お茶か、紅茶か、あと…炭酸水くらいしかないが。何飲む?」
「先生はいつも何を?」
千紗は遠慮して合わせようと聞いてみる。
「俺?俺はコーヒーだけど、千紗は苦手だろ?」
そんな小さな事まで覚えていてくれているんだ。と、感動を覚えた。
「私もコーヒーで…。」
ちょっとは大人に見られたくて、強がってしまう。
「合わせなくてもいい。頭痛くなるんだろ?」
「時と場合によります…。」
変に突っぱねて、若干意固地になってしまう。
「昨夜は慣れない酒も飲んだし肝臓を休ませた方がいい。」
半ば強制的にミネラルウォーターを渡された。
「…ありがとう、ございます。」
やっぱり如月先生は私を子供扱いしてる。そう思うと心なしか気持ちが凹む。
ちびちびとサンドウィッチを食べていると、
「どうした?元気ないけど頭でも痛いのか?」
と二日酔いなのかと心配してくれる。
不意に頬を触れられて、ビクッと体が震えてしまう。
「ごめん…急に触れたら怖いよな。」
如月がサッと手を引き、離れた気配を感じて、少しの寂しさを覚える。
ふるふると首を横に振り、そんな事ないと意思表示する。
「食べ終わったらこれに着替えて。適当に見繕ってきたけど、女性物の服なんて分からないから、マネキンが着てた一式買って来た。」
そう聞いて、少しだけフフッと笑顔が溢れ、つかの間場空気が和らいだ。
渡された紙袋には膝丈ほどのワンピースにカーディガン、ブラトップとパンツまで全て揃っていたから驚く。
男性が女性物の服を買うのは、きっと恥ずかしいはずなのに…そう思うと、如月先生の優しさが身体中に染み渡たるように沈んでいた気持ちも晴れていった。
「ありがとう、ございます。おいくらでしたか?一式買い取らせて下さい。」
私だってこれ以上彼に出費させる訳にはいかない。一万円…それとも三万円?
「ショッピングモールで目についた物を適当に買って来ただけだ。大した出費じゃないし気にしなくていい。」
そう笑い飛ばしてしまう如月先生の凄さを知る。
この人はとてもモテる。
私となんて一緒にいてはいけない人。一緒にいれば居るほど申し訳ない気持ちになって来る。私なんかが側にいたらダメな人だ…
「…ありがとう、ございます。」
お礼を言うのが精一杯で、何故かとても泣きたい気持ちになってしまった。
Tシャツは膝上ぐらいまで隠れてしまうし、短パンは紐をぎゅっと締めてもずり落ちてしまほど大きくて、体格の差を実感して唖然とする。
まるで大人と子供くらいの違うんだ…。如月先生からみたら私なんて手のかかる子供と同じなのかもしれない。
惨め…なのか…がっかり、なのか分からない感情に打ちのめされる。
短パンを履く事は諦め、手探りでソファのある場所へ戻ろうと試みる。
ああ、そういえばお風呂場まで横抱きにされて連れて来られたから…この家の配置が全く分からない。
どこに机があってソファがあって、棚があって…私達視覚障害者は手や足の感覚で、空間を把握する。
過保護に運ばれた私は、真っ白な配置図しか持ち合わせていなかった。
勇気を出して引き戸をひく。
手を前にかざして歩き出せば、直ぐに壁にぶつかるから…きっとここは…廊下?
壁つたいに真っ直ぐ歩けばリビングに着くはず。そう判断して手探りで探りながら慎重に歩き出す。
あれ…?床の冷たさが変わった…?ザラザラしてる。足から感じる感覚で、ここは玄関タタキかもしれない…と判断する。
フローリングからの段差が少なくほぼフラットだったから気付かなかった…。
はぁーこれじゃ、振り出しに戻っただけだ。
視覚が無い世界は空間を把握するのに時間がかかる。泣きたくなるような感情に襲われその場に座り込む。
そのタイミングでガチャガチャっと玄関に音が響いて、パッと明るい光が差し込んだ。
風がフワッと吹いたかと思うと、あっという間の速さに、米俵のように肩に担ぎ込まれた?
ええっ…⁉︎
よく分からないまでも相手は如月先生しかいないから、
「お、お帰り、なさい…」
担がれながらもうそう言うと、
「…ただいま。どこ行こうとしてた?」
ぶっきらぼうに言う如月先生から何故か少しの苛立ちを感じる。
「いえ…リビングの方向を間違えたみたいで…」
そう言うと、如月先生はふーっと深いため息を吐いて、そっとソファに降ろしてくれた。
「…ごめん勘違いした。俺が居ない合間に逃げようとしてるのかと…」
流石にこの格好ではどこにも行けないよ…
降ろされた時に乱れたTシャツの裾をぱっと直す。
「なっ…!!」
如月先生から突然驚きの声がする。
「どうか…されましたか?」
不思議に思い首を傾げれば、
「あ…いや…。
やばいな…。
流石に俺のTシャツじゃデカすぎたな…と思って…。」
何故か先生が慌てている気配がする。
あれ…?また間違った?
ホテルの時のパジャマの失敗があるから、ちょっとした如月先生の反応は私を臆病にさせる。
「短パンがさすがに大き過ぎてちょっと無理だったんです。」
慌てて言い訳をしてしまう。
「いや、いい。…可愛いからそのままで。
…とりあえず、朝飯適当に買って来たから食べてから病院に行こう。
あー…ぶつけたところ、湿布貼ってテーピングだけ先にしておこう。」
今…可愛いって…?
情報力の多さに見逃してしまいそうになったけど、可愛いって…先生が私に⁉︎
聞き慣れない言葉に目をぱちぱちさせて驚いてしまう。
私の気持ちを差し置いて、如月先生はテキパキと怪我の手当てをし、歩きやすいようにテーピングまで施してくれた。
「テーピングだけじゃ痛みが引かなきゃ、痛み止めを飲んでもいいから。」
朝食のサンドウィッチと一緒に痛み止め薬を差し出される。
あの日…
思えば、あの日もサンドウィッチを食べたはず。似たようなシチュエーションであれ…?とデジャヴを感じてしまう。
思い出されるのは病気が発覚してドン底に突き落とされたあの日の事。
藤堂涼に命を救われた。
「飲み物は…お茶か、紅茶か、あと…炭酸水くらいしかないが。何飲む?」
「先生はいつも何を?」
千紗は遠慮して合わせようと聞いてみる。
「俺?俺はコーヒーだけど、千紗は苦手だろ?」
そんな小さな事まで覚えていてくれているんだ。と、感動を覚えた。
「私もコーヒーで…。」
ちょっとは大人に見られたくて、強がってしまう。
「合わせなくてもいい。頭痛くなるんだろ?」
「時と場合によります…。」
変に突っぱねて、若干意固地になってしまう。
「昨夜は慣れない酒も飲んだし肝臓を休ませた方がいい。」
半ば強制的にミネラルウォーターを渡された。
「…ありがとう、ございます。」
やっぱり如月先生は私を子供扱いしてる。そう思うと心なしか気持ちが凹む。
ちびちびとサンドウィッチを食べていると、
「どうした?元気ないけど頭でも痛いのか?」
と二日酔いなのかと心配してくれる。
不意に頬を触れられて、ビクッと体が震えてしまう。
「ごめん…急に触れたら怖いよな。」
如月がサッと手を引き、離れた気配を感じて、少しの寂しさを覚える。
ふるふると首を横に振り、そんな事ないと意思表示する。
「食べ終わったらこれに着替えて。適当に見繕ってきたけど、女性物の服なんて分からないから、マネキンが着てた一式買って来た。」
そう聞いて、少しだけフフッと笑顔が溢れ、つかの間場空気が和らいだ。
渡された紙袋には膝丈ほどのワンピースにカーディガン、ブラトップとパンツまで全て揃っていたから驚く。
男性が女性物の服を買うのは、きっと恥ずかしいはずなのに…そう思うと、如月先生の優しさが身体中に染み渡たるように沈んでいた気持ちも晴れていった。
「ありがとう、ございます。おいくらでしたか?一式買い取らせて下さい。」
私だってこれ以上彼に出費させる訳にはいかない。一万円…それとも三万円?
「ショッピングモールで目についた物を適当に買って来ただけだ。大した出費じゃないし気にしなくていい。」
そう笑い飛ばしてしまう如月先生の凄さを知る。
この人はとてもモテる。
私となんて一緒にいてはいけない人。一緒にいれば居るほど申し訳ない気持ちになって来る。私なんかが側にいたらダメな人だ…
「…ありがとう、ございます。」
お礼を言うのが精一杯で、何故かとても泣きたい気持ちになってしまった。



