「やめてよ!思い出さないで!名古屋に来た意味ないじゃん……」

胸がズキズキと痛い。喉が誰かに絞められているかのように苦しい。片付けの手が止まる。今すぐにでも、このアルバムを捨ててしまいたくなった。その時だった。

ピンポーン

玄関のチャイムが音を立てる。さっき大声を出してしまったから苦情を言いに来たんじゃないか。引っ越し初日からトラブルなんて、と思いながら顔が真っ青になっていく。すると、なかなか出てこない私に痺れを切らしたのか、もう一度チャイムが鳴った。

「は、はい!すぐ行きます!」

ビクビクしながら玄関へと向かう。チェーンと鍵を外してドアを開けると、そこにはよく知った顔があった。ーーー今、世界で一番見たくない顔があった。

「よっ。引っ越しの片付け、手伝いに来た」

そう言って笑った男の名前は梶原司(かじわらつかさ)。二月に私が失恋した相手である。



司との出会いは、中学校の部活だった。私は料理やお菓子作りが好きだったので、中学校に入ったら調理場に入ると決めていた。家庭科室の中にわくわくしながら入ると、女子生徒しかいない中に男子生徒が一人ポツンと座っていた。それが司だった。