「時任先輩。ほんとうに……」
「うちが、旧家の星成士ということは知っているか? 曾祖父にいたっては、さきの祝祭にも参加して、財団とのつながりも太い。つまり会長が聞き届けた『星』の声の情報を、横流ししてもらえる星成士とのつながりもあるわけだ」
先輩がいったことに、わたしは反応せずにはいられなかった。
わたしの小さなリアクションを、時任先輩は目ざとく見逃さなかった。
「おまえが、『アステル』を隠しているという情報がある。……ほんとうか?」
わたしは必死で、表情を隠した。
ここで、悟られるわけにはいかない。
「いきなり祝祭とか、財団とか、なんの話ですか?」
「おまえが、『無尽蔵の導力』を持っているという話も聞いた。事実か?」
周りのざわめきが、だんだんとひそひそ声になっていくのが、わかる。
みんな、時任先輩の『ひとりごと』を、しっかりと聞いているみたいだ。
「祝祭は――すでにはじまっている。アステルが、この町に戻ってきた、その瞬間から。星の器をどこに隠した? 歌仙陽菜」
「アステルって、何なんですか」
「とぼけているのか」
「……何をいっているのか、ほんとうにわからないんです」
「しらばっくれるのが、趣味のようだな。おもしろい」
時任先輩の手が、わたしの顎をすくいあげた。
頬をぎゅっと押さえつけられ、時任先輩から視線をそらせなくなる。
そのとき、時任先輩の手首を、燐くんが掴んだ。
「……陽菜に触るなって、いったよね。その手を離して」
時任先輩は、じろりと燐くんをにらみつけると、「はあ」と息をついた。
「気の強い番犬だな。気を張るな。今日は、ようす見だけだ」
教室を出て行く、時任先輩。
しかし、ドアのところまで来たとき、時任先輩がふいに、こちらを振り返った。
「歌仙陽菜」
警戒のあまりわたしは、返事をしなかったけれど、時任先輩はかまわず話を続けた。
「おまえが、なぜ『アステル』を隠しているのか知らないが……星成士が、それを手に入れたとたん、『星の器』は自動的に消滅する――おまえが星の器となった人間のために、むだなあがきをしているのだとしたら」
時任先輩は、ふっと薄ら笑いを浮かべた。
「おまえは……どれだけ、途方もないことをしているのか。そのことを、自覚しているのか?」
そう吐き捨てると、時任先輩はようやく教室を出て行った。
柚希や、まわりのみんなは、あぜんとしている。
そりゃ、そういう反応になるよね……。
「……陽菜」
何かいいたげな燐くんに、わたしはきゅと、くちびるを引き結んだ。
燐くん、ぜんぶ聞いてたよね。
いま、時任先輩がいった……色んなこと。
視線を泳がせていると燐くんが、真剣な表情で、わたしに鼻先が触れそうなほどの至近距離に、ぐいっとつめ寄ってきた。
「さっきの、どういうこと。あいつ、なんなの。陽菜、もしかして変なことに巻きこまれてる?」
「えっと、なんだろう……時任先輩、へんな夢でも見たんじゃないかな……」
われながら、いいわけが下手すぎる。
ほんとうのことをいうわけにはいかないし、なにより……。
アステルの器である燐くんの存在を、時任先輩や、もうひとりの星成士に知られるわけにはいかない。
登録されている星成士はもうひとりいるから、まだまだ気はぬけない。
わたしは、いまできる、せいいっぱいの笑顔を作った。
「大丈夫だから、心配しないで」
「……うそをつくなら、もっと上手につくべきだよ」
「えっ」
「きみ、あいかわらず、うそをつくのが下手だね」
さーっと、血の気が引いていくのを感じた。
幼稚園のころから、燐くんにはなぜかわたしのうそが、すぐにバレてしまう。
癖があるみたいなんだけど、あのころから、ちっとも教えてくれなかった。
「あのころから、ぜんぜん成長してない。他の人には、バレないのかもしれないけど、ぼくにはわかる」
「り、燐くん……。あのときから、わたしの嘘をつくときの癖は変わったんだよ! いまは、違うかも……しれないよ?」
すると、燐くんは呆れたようにため息をついてから、わたしの頭のうえに、ぽんと手のひらを乗せてきた。
「まばたきが多いし、目がきょろきょろ泳ぎすぎ。これで、嘘をついていないとしたら、きみはとんだ演技派だよ」
そ、そんなに挙動不審なの、わたしっ?
「で、でも……」
「いいよ。ぼくにはいえないことなんでしょ。なら、これ以上は聞かない」
いつも以上に、ぶっきらぼうないい方で、燐くんはわたしから視線をそらした。
怒ってる……よね。
燐くんとケンカなんて、いやだな。
でも、わるいのは嘘をついている、わたし。
ほんとうは燐くんに嘘なんて、つきたくない。
ぜんぶ、白状したい。
だけど、祝祭のことを、燐くんに打ち明けるなんて……できないよ。
わたし、どうすればいいんだろう……。
「うちが、旧家の星成士ということは知っているか? 曾祖父にいたっては、さきの祝祭にも参加して、財団とのつながりも太い。つまり会長が聞き届けた『星』の声の情報を、横流ししてもらえる星成士とのつながりもあるわけだ」
先輩がいったことに、わたしは反応せずにはいられなかった。
わたしの小さなリアクションを、時任先輩は目ざとく見逃さなかった。
「おまえが、『アステル』を隠しているという情報がある。……ほんとうか?」
わたしは必死で、表情を隠した。
ここで、悟られるわけにはいかない。
「いきなり祝祭とか、財団とか、なんの話ですか?」
「おまえが、『無尽蔵の導力』を持っているという話も聞いた。事実か?」
周りのざわめきが、だんだんとひそひそ声になっていくのが、わかる。
みんな、時任先輩の『ひとりごと』を、しっかりと聞いているみたいだ。
「祝祭は――すでにはじまっている。アステルが、この町に戻ってきた、その瞬間から。星の器をどこに隠した? 歌仙陽菜」
「アステルって、何なんですか」
「とぼけているのか」
「……何をいっているのか、ほんとうにわからないんです」
「しらばっくれるのが、趣味のようだな。おもしろい」
時任先輩の手が、わたしの顎をすくいあげた。
頬をぎゅっと押さえつけられ、時任先輩から視線をそらせなくなる。
そのとき、時任先輩の手首を、燐くんが掴んだ。
「……陽菜に触るなって、いったよね。その手を離して」
時任先輩は、じろりと燐くんをにらみつけると、「はあ」と息をついた。
「気の強い番犬だな。気を張るな。今日は、ようす見だけだ」
教室を出て行く、時任先輩。
しかし、ドアのところまで来たとき、時任先輩がふいに、こちらを振り返った。
「歌仙陽菜」
警戒のあまりわたしは、返事をしなかったけれど、時任先輩はかまわず話を続けた。
「おまえが、なぜ『アステル』を隠しているのか知らないが……星成士が、それを手に入れたとたん、『星の器』は自動的に消滅する――おまえが星の器となった人間のために、むだなあがきをしているのだとしたら」
時任先輩は、ふっと薄ら笑いを浮かべた。
「おまえは……どれだけ、途方もないことをしているのか。そのことを、自覚しているのか?」
そう吐き捨てると、時任先輩はようやく教室を出て行った。
柚希や、まわりのみんなは、あぜんとしている。
そりゃ、そういう反応になるよね……。
「……陽菜」
何かいいたげな燐くんに、わたしはきゅと、くちびるを引き結んだ。
燐くん、ぜんぶ聞いてたよね。
いま、時任先輩がいった……色んなこと。
視線を泳がせていると燐くんが、真剣な表情で、わたしに鼻先が触れそうなほどの至近距離に、ぐいっとつめ寄ってきた。
「さっきの、どういうこと。あいつ、なんなの。陽菜、もしかして変なことに巻きこまれてる?」
「えっと、なんだろう……時任先輩、へんな夢でも見たんじゃないかな……」
われながら、いいわけが下手すぎる。
ほんとうのことをいうわけにはいかないし、なにより……。
アステルの器である燐くんの存在を、時任先輩や、もうひとりの星成士に知られるわけにはいかない。
登録されている星成士はもうひとりいるから、まだまだ気はぬけない。
わたしは、いまできる、せいいっぱいの笑顔を作った。
「大丈夫だから、心配しないで」
「……うそをつくなら、もっと上手につくべきだよ」
「えっ」
「きみ、あいかわらず、うそをつくのが下手だね」
さーっと、血の気が引いていくのを感じた。
幼稚園のころから、燐くんにはなぜかわたしのうそが、すぐにバレてしまう。
癖があるみたいなんだけど、あのころから、ちっとも教えてくれなかった。
「あのころから、ぜんぜん成長してない。他の人には、バレないのかもしれないけど、ぼくにはわかる」
「り、燐くん……。あのときから、わたしの嘘をつくときの癖は変わったんだよ! いまは、違うかも……しれないよ?」
すると、燐くんは呆れたようにため息をついてから、わたしの頭のうえに、ぽんと手のひらを乗せてきた。
「まばたきが多いし、目がきょろきょろ泳ぎすぎ。これで、嘘をついていないとしたら、きみはとんだ演技派だよ」
そ、そんなに挙動不審なの、わたしっ?
「で、でも……」
「いいよ。ぼくにはいえないことなんでしょ。なら、これ以上は聞かない」
いつも以上に、ぶっきらぼうないい方で、燐くんはわたしから視線をそらした。
怒ってる……よね。
燐くんとケンカなんて、いやだな。
でも、わるいのは嘘をついている、わたし。
ほんとうは燐くんに嘘なんて、つきたくない。
ぜんぶ、白状したい。
だけど、祝祭のことを、燐くんに打ち明けるなんて……できないよ。
わたし、どうすればいいんだろう……。



