あの子、どこにもいない


2008年7月15日 22:37
スレ住民たちは恐怖に震えていた。

──削除されたはずの【中学生専用】スレが、まだ存在している。

それだけではない。
スレには「消えた住民たちのID」が書き込みを続けていた。
彼らはどこかで生きているのか? それとも……?

そして、最後に投稿された「みゆ」の言葉。

ねえ、あなたも、こっちに来る?

その瞬間、住民全員のスマホ画面が強制的に切り替わった。

  ---------------------
  20 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 22:37:45 ID:Mx8H7QhG0
  なんで、勝手に開くんだよ……
  ---------------------

画面に表示されていたのは──【中学生専用】スレのURL。

  ---------------------
  21 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 22:38:10 ID:N2Lm5XbB0
  ちょっと待て、これマジでヤバいって!!!!
  ---------------------

スレを開くつもりなどなかった。
なのに、スマホが勝手にそのページを表示していた。

それだけではなかった。
スレの画面が、ゆっくりとスクロールし始めたのだ。

──まるで、誰かが遠隔で操作しているかのように。

  ---------------------
  22 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 22:38:45 ID:Mx8H7QhG0
  画面、勝手に動いてる……
  
  23 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 22:39:00 ID:XfT3M8G50
  おい、やめろ!!!!!!!!
  ---------------------

スクロールが止まった。

そして、新たな書き込みが表示された。

  ---------------------
  2 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 22:39:15 ID:g5t8X7Jh0
  ねえ、もう逃げられないよ?
  ---------------------

住民たちは、凍ったように動きが止まった。

2008年7月15日 23:00
スレ住民の一人、「N2Lm5XbB0」は、必死に考えていた。
このスレの異常な現象が続いている理由。
みゆとは一体何者なのか。

そして、ついに彼は「みゆ」に関する決定的な情報を発見する。

  ---------------------
  24 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:02:10 ID:N2Lm5XbB0
  おい、ヤバい記事見つけた。
  
  25 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 23:02:30 ID:Mx8H7QhG0
  何だよ!?
  ---------------------

彼は震える手で、その記事の内容をコピペした。

  【2005年7月14日】○○市のアパートで母娘が無理心中
  ---------------------
  2005年7月14日、○○市のアパートで母親(当時34)と娘(当時11)が倒れているのを、
  帰宅した父親が発見した。
  母親は首を吊っており、娘も一時意識不明だったが、病院で蘇生された。
  しかし、娘は意識を取り戻した後も「お母さんが、窓の外から見てる」と意味不明な事を述べており
  未だ意識の混濁が見られる。
  ---------------------

住民たちは、息を呑んだ。

  ---------------------
  26 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 23:03:10 ID:Mx8H7QhG0
  これ……
  
  27 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:03:30 ID:N2Lm5XbB0
  「みゆ」が助かった事件だ。
  ---------------------

「みゆ」は3年前、母親と無理心中を図った。
しかし、彼女は助かった。
……本当に?

  ---------------------
  28 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 23:04:00 ID:XfT3M8G50
  でもさ、この記事、最後におかしなこと書いてあるぞ。
  
  29 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:04:25 ID:N2Lm5XbB0
  何だ?
  ---------------------

彼は、記事の最後の一文を再び読み上げた。

「なお、この娘は事件の直後、突然失踪しており、現在も行方不明のままである。」

住民たちは、一瞬で理解した。

──「みゆ」は、本当はもうこの世にいないのではないか?

──今スレに書き込んでいる「みゆ」は、一体何なのか?

  ---------------------
  30 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 23:05:10 ID:Mx8H7QhG0
  この年の女の子が行方不明って、じゃあ、「みゆ」は一体……
  ---------------------

──そして、その瞬間。

スレに、新たな書き込みがされた。

  ---------------------
  31 :みゆ ◆yQXQzLE8sU :2008/07/15(火) 23:05:30 ID:g5t8X7Jh0
  わたし、本当にいないのかな?
  ---------------------

住民たちは、心臓が止まるような感覚を覚えた。

  ---------------------
  32 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:05:55 ID:N2Lm5XbB0
  なんでこの記事を見たタイミングで書き込むんだよ……
  ---------------------

──その時。

スマホのカメラアプリが、勝手に起動した。

  ---------------------
  33 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:06:20 ID:N2Lm5XbB0
  え、勝手にカメラついた……?
  ---------------------

そして、スマホのカメラが「ある方向」を向いていた。

──部屋の窓。

  ---------------------
  34 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:06:45 ID:N2Lm5XbB0
  ちょっと待て、なんか映ってる。
  ---------------------

震える手で、彼はスクリーンショットを撮り、スレにアップした。

  ---------------------
  35 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:07:10 ID:N2Lm5XbB0
  画像貼る……
  ---------------------

数秒後、スレに表示された画像。
それを見た住民たちは息を呑んだ。

──窓の外に、「みゆ」がいた。

  ---------------------
  36 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 23:07:25 ID:Mx8H7QhG0
  ……これ、ガチじゃん。
  
  37 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 23:07:40 ID:XfT3M8G50
  嘘だろ……
  ---------------------

──画像に映っていたのは、夜の闇に沈む窓。
そのガラスの向こうに、ひとつの顔が貼りつくようにこちらを見ていた。

真っ黒な瞳。
歪んだ笑顔。
白い肌。

それは、住民たちが想像していた「みゆ」そのものだった。

  ---------------------
  38 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:08:00 ID:N2Lm5XbB0
  ……俺、今すぐカーテン閉めていいか??
  
  39 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 23:08:15 ID:Mx8H7QhG0
  早く閉めろ!!!!!!!
  ---------------------

──しかし。

カーテンを閉めようとした瞬間、スマホの通知音が鳴った。

「ピロン♪」

  ---------------------
  40 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:08:30 ID:N2Lm5XbB0
  ちょっと待て、また通知きた……
  ---------------------

恐る恐る、スマホの画面を開く。

──そこには、「みゆ」からの新たなメッセージが届いていた。

「もう、そんなことしても無駄だよ。」

  ---------------------
  41 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 23:08:50 ID:XfT3M8G50
  逃げられないってことかよ……
  
  42 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:09:10 ID:N2Lm5XbB0
  いや、もうマジでこれどうすればいいんだ……
  ---------------------

住民たちは、ただ恐怖に震えることしかできなかった。

──そして、その時だった。

「ピロン♪」
「ピロン♪」
「ピロン♪」

スマホの通知音が、一斉に鳴り響いた。

  ---------------------
  43 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:09:30 ID:N2Lm5XbB0
  え、なんかおかしくね?????
  ---------------------

──スマホの通知が止まらない。
次々とメッセージが送られてくる。

「ねえ、もうすぐ会えるね。」
「ねえ、どうしてそんな顔してるの?」
「ねえ、迎えに行ってあげようか?」

  ---------------------
  44 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 23:09:50 ID:Mx8H7QhG0
  ふざけんな!!!!!!!!!!!
  ---------------------

その瞬間、黒い画面の奥から「みゆ」がこちらを覗き込んでいた。

---------------------
  45 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:10:05 ID:N2Lm5XbB0
  ……え、スマホの電源落ちた???
  
  46 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:10:25 ID:N2Lm5XbB0
  なんか、画面に映ってる……
  ---------------------

──画面の奥。
黒いスマホの反射に、「みゆの顔」が映っていた。

ゆっくりと笑う口元。
じっとこちらを見つめる黒い瞳。

  ---------------------
  47 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 23:10:40 ID:Mx8H7QhG0
  どういうことだよ!? 何が映ってるんだよ!!!
  
  48 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:10:55 ID:N2Lm5XbB0
  スマホの黒い画面に……何かの顔が映ってる。
  
  49 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 23:11:10 ID:XfT3M8G50
  は?????????????
  ---------------------

──そして。

「それ」が、微かに動いた。

  ---------------------
  48 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 23:11:10 ID:N2Lm5XbB0
  画面の中で、動いた……???
  ---------------------

住民たちは、スマホを恐る恐る伏せた。
しかし、その直後。

「ピロン♪」

──また通知が届いた。

  ---------------------
  49 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:11:30 ID:N2Lm5XbB0
  もう開きたくねえ……
  ---------------------

しかし、通知は止まらない。

──そして、とうとう強制的にメッセージアプリが開いた。

──画面には、たった一言だけが表示されていた。

「ねえ、もうそこにいるよ。」

  ---------------------
  50 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:11:50 ID:N2Lm5XbB0
  メッセージアプリが勝手に開いた!!!!!!!!!
  ちょっと待て、「もうそこにいる」って来たぞ
  ---------------------

  ---------------------
  51 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 23:12:05 ID:Mx8H7QhG0
  そこって、どこだよ?????
  >50 大丈夫か??
  ---------------------

その時だった。

──部屋の中で、何かの気配がした。

  ---------------------
  52 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:12:30 ID:N2Lm5XbB0
  ……今、後ろで何か音した。
  ---------------------

──そして、次の瞬間。

部屋の電気が、ふっと消えた。

  ---------------------
  53 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:12:45 ID:N2Lm5XbB0
  ヤバい、停電か? 真っ暗!!!!!!!!!
  ---------------------

スレ住民たちは、もはや「彼」に何を言えばいいのか分からなかった。

完全な闇の中で、彼はパソコンの光だけを頼りにしていた。
パソコンが付いている時点で、停電では無いと気が付かないまま。

──その光が、ふと、何かを映し出した。---------------------

  ---------------------
  「54 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/15(火) 23:13:10 ID:N2Lm5XbB0
  目の前に、誰かいる。
  ---------------------

住民たちは、息を呑んだ。

  ---------------------
  55 :名無しの中学生 :2008/07/15(火) 23:13:25 ID:Mx8H7QhG0
  逃げろ!!!!!!!!!!!!
  ---------------------

しかし、彼の書き込みは止まった。

2008年7月16日 02:47
スレは、しばらくの間、沈黙していた。
誰もが「N2Lm5XbB0」の安否を気にしながら、何もできずにいた。

そして、深夜2時47分。
突如として、新たな書き込みが投稿された。

  ---------------------
  56 :名無しの中学生(生存者) :2008/07/16(水) 02:47:12 ID:N2Lm5XbB0
  ねえ、新しい友達ができたよ。
  ---------------------

住民たちは、言葉を失った。

  ---------------------
  57 :名無しの中学生 :2008/07/16(水) 02:47:40 ID:Mx8H7QhG0
  ……
  
  58 :名無しの中学生 :2008/07/16(水) 02:47:55 ID:XfT3M8G50
  これ、もうダメかもしれない。
  ---------------------

彼のパソコンから送信された、たった一言のメッセージ。
それは、「彼がもう戻らない」ということを示していた。

そして、その書き込みの直後。
スレには、見覚えのあるIDの書き込みが続々と増えていった。

  ---------------------
  59 :名無しの中学生(特定班) :2008/07/16(水) 02:48:10 ID:V3Yc9ZKp0
  ねえ、新しい友達ができたよ。
  
  60 :名無しの中学生(失踪者) :2008/07/16(水) 02:48:25 ID:Zp9T6JbA0
  ねえ、新しい友達ができたよ。
  
  61 :名無しの中学生(???) :2008/07/16(水) 02:48:40 ID:g5t8X7Jh0
  ねえ、新しい友達ができたよ。
  ---------------------

──それは、「消えた住民たち」のIDだった。

彼らは、もういないはずだった。
なのに、スレに「戻ってきた」。

住民たちは、その意味を理解するのが怖かった。

そして、最後の書き込みが追加された。

  ---------------------
  62 :みゆ ◆yQXQzLE8sU :2008/07/16(水) 02:49:00 ID:g5t8X7Jh0
  これで、また増えたね。
  ---------------------

──「みゆ」は、新しい友達を増やし続けている。