貴方ともう一度、恋の夢を

 迫り来る大きな手に、思わず目を瞑ると、猫が威嚇する声がした。


 さっきの子が、膝に乗って男に向かって威嚇している。


「なんだ、この猫」


 男は容赦なく猫の首根っこを掴み、私から引き剥がした。

 猫はその辺に投げ捨てられ、近くにあった柵のようなものに、強く背中を打ち付けた。
 そして、重力に従って、黒猫は地面に落ちた。


 黒猫が動く気配が、ない。


 男に声をかけられたときとは違う恐ろしさが、込み上げてくる。


 私のせいだ。私を庇ったから、あの子は。


「行くぞ」


 待って、あの子の様子が見たいの。


 そう思っているはずなのに、男に腕を掴まれ、引っ張られているせいで、黒猫に近寄ることができなかった。




 それから場面が変わり、私は薄暗い部屋にいた。

 小さな窓から、大粒の雨が降っているのが見える。


 こんなにも雨が降っていたら、この古い建物が壊れてしまいそう。


 そんなことを思いながら、ただただ、灰色の空を眺めていた。


 あの人に会いたい。桜子の夢を見せるなら、あの人に会わせて。


 星も見えない空に、私はひたすら願った。


 だけど、雨音は強くなる一方。

 お前の願いなど聞くものかと、神様が怒っているみたい。


 横恋慕しようとしたから?
 だったら、私にこんな夢を見せないでよ。
 もう、夢から覚めたい。
 こんな世界に、いたくない。


「桜子、出てきなさい」


 視界が滲むのは、私が泣こうとしているからだと認識するのと同時に、扉の向こうから声がした。


 あの男の声だ。