貴方ともう一度、恋の夢を

『嫁いだ先で、相手の好みの味を作ることができたら、それで十分なのよ』


 いつだったか、お母さんにそう言われた。


 私は、お母さんの味が一番なのに。だから、お母さんと同じ味を作りたいのに。
 どうしてわかってくれないの、と思うこともあったけれど、今では納得している。

 お母さんのこの味は、父様が好きな味なのだから。


 そんな二人の姿を見てきたから、私も素敵な男性を見つけたいと思ってはいるけれど……


 夢で出会った彼よりも素敵な人と、出会えるような気がしていない。


 彼のことを思い出して、無性に気になってきた。


「……ねえ、お母さん」


 お母さんが洗い物をするための水を止めたタイミングで、声をかけてみる。


「なあに?」
「お母さんの知り合いに桜子って人、いる?」


 知らない人の夢なんて、そうそう見ないだろうから、身近な人の話から夢でも見たのかと思った。


 私の知り合いには桜子という子はいないし、お母さんの友人の中にいるのかと思ったけれど。


 聞いて、どうするんだろう。
 会いに行く? わざわざ、失恋しに?


「さくらこ……いたかしら……」

 お母さんは視線を空に迷わせ、考えている。


 ただの夢の話なのに、こうしてちゃんと考えてくれているところを見ていると、付き合わせて申し訳ない気がしてきた。


「その人がどうかしたの?」
「……ううん、なんでもない」


 私は味噌汁を飲むことで、誤魔化した。