貴方ともう一度、恋の夢を

「……黎夜くん」


 静かな空間で、緋翠の声が耳に届く。
 声がしたほうを向けば、緋翠と、その後ろに瑚羽がいる。


「君の望み通り、彼女の夢を喰らってきた。彼女が君たちのことを夢に見る日は、もう来ないだろうね」
「……そっか。ありがとう」


 闇に攫われてしまいそうな声で返すと、再び月を見上げた。
 互いになにも言わない無言の時間。


ーーこれでよかったのかい?


 きっと緋翠は、そう言いたいはずだ。
 けれど、一向に言ってこない。


「……先に帰っているね」


 緋翠の言葉をきっかけに、俺は独りになった。


 静まり返る空間。有るのは月だけ。
 つまり、俺が涙を零したのを知っているのも、月だけ。


「約束……守れなくてごめん」


 俺の言葉は、どこに届くのだろう。
 桜子に届いてくれるだろうか。
 いや、届いてほしい。


「……桜子のことは、永遠に忘れないよ」


 だからまた、夢で逢おう。
 そう心に誓って、俺は揺れる月に背を向けた。