貴方ともう一度、恋の夢を

「……夢を」


 たったその一言だけで、緋翠は口角を上げた。


「とうとう私に捧げる気になったのかい?」
「……いや、俺の記憶はやらない」


 何度目か知らないやり取りに、緋翠は口を尖らせる。

 酒が入っていることもあり、表情がころころと変わっていく。
 次々と展開を見せる紙芝居のようだ。


「俺のじゃなくて……桜子の、生まれ変わりという娘の夢を、喰ってほしい」


 緋翠はゆっくりと瞬きをした。


 先刻までの勢いが緩まり、まるで時が止まったかのよう。
 お猪口に残った酒を呷ると、またにんまりと笑った。


「それは面白い申し出だね。しかし、なぜそんなことを言うんだい? 地獄である記憶を幸せな時間に塗り替える好機だろう?」


 俺だって、そう思った。やり直す好機だと。
 浮かれて、人の世に向かった。

 だから、それを否定する気は一切ない。


 ……でも。


「あの娘は、桜子の生まれ変わりだろう。だけど……桜子ではないんだ」


 若干小難しい言い回しをしたせいか、緋翠は首を捻る。


「……とにかく、娘は娘の時間を生きなければならない。俺の後悔に付き合わせるわけにはいかない」
「黎夜くんは優しいねえ。もっと我がままに生きればいいのに」