貴方ともう一度、恋の夢を

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 妖の世に戻ると、俺は緋翠の屋敷に急いだ。


 はやく。また、あの娘が夢を見てしまう前に。


「瑚羽!」


 緋翠よりも先に少女姿の瑚羽を見かけて呼びかけたが、瑚羽は振り返ることなくどこかに向かっている。
 無視をされるのはいつものことだが、急いでいる今、その態度が腹立たしく感じた。


 俺は瑚羽を追いかけ、その前に立った。

 不服そうな視線が、下から向けられる。


 理不尽に嫌われていることに慣れてしまった今、それを無視して本題に入る。


「緋翠、どこにいるか知らない?」
「……記憶、喰らってもらう気に……なった?」
「あー……まあ、そんなとこ」


 説明をしている暇もなく、適当に流してしまったのは、瑚羽をより不快にしてしまうかもしれないと思ったが、案外興味がなかったようで、瑚羽は「ふーん……」と相槌を打った。


「緋翠なら……美味しい夢を喰らったから、呑んでくるって……いつものお店に、いるんじゃない?」
「わかった、ありがとう」


 俺は屋敷を飛び出て、緋翠の行きつけの店に向かった。


 しかしながら、人の姿をするようになって長いというのに、こうして走るときには不便だと感じてしまう。
 猫の姿に変えてから走ればよかった。


 そんな後悔をしながら足を進め、店にたどり着くと、もう酔っ払った緋翠を見つけた。


「おや、黎夜くん。そんなに急いでどうしたんだい?」


 俺の焦燥感とは裏腹に、緋翠は目の前の酒を嗜んでいる。

 焚き付けたくせに、呑気な奴め。