貴方ともう一度、恋の夢を

『よかった……あの子、生きていたのですね』


 人の姿をして逢いに行ったとき、桜子もそんなふうに俺の心配をしてくれていた。


 少しずつ桜子と娘が重なるが、どうにも違和感が拭えない。


「……それでね。あの人も、夢に出てきたんだ」


 そうだ。
 娘は、まだ一度も思い出したとは言っていない。
 すべて、夢として語っている。


 この寂寥感の正体は、それか。


「朝もあの人の夢を見て、素敵だなあって思ってたのに……やっぱり、桜子のことが一番なんだってわかっちゃって」


 それを聞いて、俺は気付かされた。


 俺はあの日で時間が止まっているから、また桜子との時間を刻むことができるだろうなんて浮かれていたけれど。


 あの日の続きを過ごすことなんて、できやしないんだ。


 ここにいるのは、桜子であり、桜子ではないのだから。


「どうせ夢を見せるなら、知らない誰かを見ているあの人じゃなくて……私を見てくれる素敵な男の人との楽しい時間を見せてくれればいいのにね」


 娘は少し寂しそうに言った。


 まるで、あの日々を思い出すことを嫌がっているような……


 俺は、桜子がどんな姿をしていても愛する自信があった。
 あの日々よりも穏やかになった今なら、二人の幸せな時間をやり直せるのだと浮かれていた。


 けれど、それは俺の勝手な思い。


 桜子や娘がどう思うかなんて、微塵も考えていなかった。


 桜子はとうの昔にいなくなった。
 ここにいるのは、今俺に触れているのは、桜子の魂から生まれ変わった別の娘。


 優先すべきは、娘の気持ちだろう。


 娘にとって、俺たちの過去はきっと、毒だ。


「……なんて、夢になにを期待してるんだろうね」


 ごめん。つらい思いをさせて、ごめん。
 娘がまだ夢だと思っている今が好機だ。


「あ、猫ちゃん……」


 俺が娘の手から離れると、娘の名残惜しい声が聞こえた。
 振り向くと、娘の眉が八の字になっている。


 ああ、そこまで桜子と重なるなんて。


 頼むよ。俺に、未練を重ねさせないでくれ。
 君は、君の時間を生きるんだ。


 俺は後ろ髪を引かれる思いで、妖の世に戻った。