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 夢を見ていた。
 とても懐かしく、愛おしい記憶。


「猫は甘い物を食べられるのかしら」


 俺と視線を合わせるために、桜子はしゃがみ込んだ。


 差し出されたあれは、なんだっただろうか。

 あのとき桜子に甘い物をもらう前に、桜子が連れ去られたから、覚えていない。


 いつだって、アイツは桜子に哀しい顔をさせていた。


 俺は何度も、桜子が引きずられるように去る姿を見てきた。


 いつか、俺と会うことが嫌になって来なくなるかもしれない。


 そう不安に思っていたが、桜子は変わらず俺の元に来てくれた。


「こんにちは、猫さん」


 別れ際とは異なり、いつだって柔らかく微笑んで。


「猫さんは暖かいのね」


 いつだって、少し冷たい手で優しく撫でてくれた。


 そんな桜子が愛おしくて。
 だからあの日、俺はアイツから桜子を守ろうとしたんだ。


 だが、あっさりと人間に追い払われてしまった。


「おやおや。人間を守って死ぬとは、可哀想な黒猫だ」


 意識が遠のいていく中で、奴の声が聞こえた。