『よくやったな、嗣翠』
俺の名前は、母がつけたらしい。
「嗣」はあとつぎ、「翠」は美しく高貴な、って意味だと聞いたことがあった。
そんな名前を呼んで俺を褒めたその男は、どうやら俺の父みたいだった。
――反吐が出る。
嫌悪するのはどんな部分かと聞かれれば、すべてだった。
憎悪するのはどんな部分かと聞かれれば、すべてだった。
否、今では俺があの人を憎悪しているのか嫌悪しているのか、それとも別の何かなのか、わからなくなってしまった。
ただ、潰したい。
ぶっ潰す。
そう思って生きてきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
隣には、真剣な顔をしてキーボードを叩く「ベルガモット」・・・八神 椿の姿がある。
あんなに怪しかったのに、唐突で変な頼みだったのに椿は受け入れて、こんなに真剣に、誠実に取り組んでくれている。
顔と名前まで晒し、同居を許してくれるのは正直予想外だった。それだけ、俺の本気を読み取られたということだろう。
『誠意を見せたのは、あなたでしょう』
つい先日の椿の言葉が、頭をよぎる。
誠意なんかじゃない。罪滅ぼしのつもりだった。
俺が「父をぶっ潰す」ためには、どうしても「ベルガモット」が必要だった。
でも、そうすれば俺の私情のために、椿を危険に晒すことになるから。
だから、そんな自分を自分で許すために、彼女に許してもらうためにしたことだった。
「・・・・・・・・・・・・」
ふう、と小さくため息をついて、思考を切り替えた。
・・・今は、仕事だ。
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