結論から言うと、彼のハヤシライスはとっても美味しかった。


この超絶有能男。


一ノ瀬 嗣翠は去年から私邸で一人暮らしをしているらしい。


が、一人暮らしってこんなに手の込んだ料理ができるようになるものだろうか。


やっぱりマメなんだなあ。


ちなみに、皿洗いは流石の私もできるからやった。


それまでやってもらっちゃうのは罪悪感が半端ないと言ったら渋々任せてくれたのだが、何でこんなに彼は面倒見がいいのか。やっぱりおかんか。



「これから仕事?」


「そうそう、コーヒーでも飲みながら進めよっかなって」



私は自分のパソコンを持ってリビングにやってきた。


そこでは一ノ瀬 嗣翠もパソコンを開いている。



「あなたも仕事?」


「そうだけど・・・椿」



ん、と首を傾げると、コーヒを淹れてくれた(優しい)一ノ瀬 嗣翠はこつ、と私の額を軽く人差し指でつついた。



「いい加減俺の名前を呼んだらどう?今まで一回も呼んでないよね」


「あー、確かに」



名前を呼ばない、それは情報屋として誰かと関係を作らないために徹底していたことだった。


だけどもうそれは必要ない。だってこの上なく重要な関係を作ってしまったから。


となると、名前を呼んでもいいわけだ。


・・・ふむ、一ノ瀬くん、は変だな。


そもそも一ノ瀬 嗣翠は父をぶっ潰す人なんだから、名字呼びはちょっと不謹慎かも。



「わかった、嗣翠」


「そう、それでいい」



嗣翠は満足そうにしたあとぽん、と頭を撫でてくれた。


子供扱い?なんかムカつく。


けどさっき、コーヒー淹れてもらっちゃったし。


文句は次回まで我慢しようと思い、私はコーヒを啜ると仕事を始めた。


今回調べるのは、アルケーが今まで殺してきたターゲットの共通点。


私が思い出せる限り、被害者は「人身売買」「違法薬物」「性加害行為」のいずれかを犯している。


でもこれはあくまで予測だ。情報の裏を取らないと。


この情報が正解だとしたら、何でこの共通点が存在するのか、っていう方向からアルケーの正体がわかるかもしれない。


私は今まで以上に気合を入れてキーボードを叩くのだった。



「そういえば、嗣翠もデスクワークとかするんだ」


「そりゃあね。書類を捌くの、父がやると思う?」


「・・・ご苦労お察しします」



組長のぶんを全部やっている、そして構成員の制裁、さらにアルケーの件に父親のあれこれか。


ひとりぼっちなのに忙しい人だ。


・・・いや、もうひとりぼっちじゃないけどね。


流石に組織の内部情報までは見せられないとしても、少しは私が手伝える。


コーヒーを淹れたりとか!


・・・・・・さっきは、淹れてもらっちゃったけど。


こ、今度はちゃんと私が支えないと!


誠意には誠意で返す。


彼が「父をぶっ潰す」や組の運営に全力なら、私も全力にならないと意味がないんだから。











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