この日は何事もなく入学式を終えて、午後にはアパートに到着していた。
道中のスーパーでもらった段ボールに必要なものを全て入れて、再び殺伐とした部屋に戻ったそこで、パソコンを開く。
これからは、「お仕事」の時間だ。
契約の印象が強すぎて忘れていたが、そういえば殺し屋アルケーの情報を頼まれていたんだった。
「殺し屋アルケー」。
どう見てもペンネームだとわかるその名だけなら、裏社会ではよく知られている。
逆に言えば、「殺し屋アルケー」の存在と実績しか、いまだにわかっていない。
彼が女性か男性か、身長、声、住んでいる区域、目的、出身・・・何一つ公にされていない。
ある取引先は、身長は150センチほどで若い女性の声だったと言った。
だけど別の取引先は、身長は170センチ近くで青年の声だと言った。
彼、または彼女の変装術は目を見張るものがある。それが全く正体を暴けない理由だ。
とはいえ、アルケーの取引は殺し屋の中でトップ層。取引数が多いほど情報も多い。
私の身の安全は天下の一ノ瀬組――いや、一ノ瀬 嗣翠に守られるわけだし、三週間の期限は破らずに済みそうだ。
「とはいえ、流石に骨が折れるなあ」
さっきコンビニで買ってきたエナジードリンクを飲んでから、私はまたパーカーに身を包んだ。
どうやらアルケーは先週、新たな取引のためにターゲットを殺したようだ。
でもニュースにアルケーの報道はされていなかった。まだ現場は警察にも調べられていないはずだ。
「百聞は一見にしかず、ってね。いってきまーす」
呟くのと同時にアパートを飛び出す。
監視カメラに映らないルートを選択しながら、私はアルケーがターゲットを殺した現場に急いだ。
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「ふーん・・・」
現場の様子を見て、私はふんすと鼻から息を吐いた。
なるほど。
殺されたのは別の地方からやってきたらしい暴力団の幹部、らしいけど。
現場には何も残っていなかった。ただの、泥の匂いがする路地裏。
確かにこの現場から犯人を割り出すのは難しいだろう。
とりあえず、私は仕事用のスマホで現場の写真を撮ってから、素早く退散した。
誰かの気配も近づいてきたし、私も殺されちゃう前に逃げないとね。
・・・これは、三週間いっぱい使うことになりそうだ。



