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「・・・ねえね、苦しい」


「あっ、ごめんねつばき!ついかわいくてっ」



ねえねの胸から解放されて、改めて周りを見渡す。


ここは灰街、アルケーのアジト。


今度は、ちゃんと嗣翠も来た。



「ねえね?って呼んでるんだ」


「そうそう。昔からねえねのことはそう呼んでる・・・ぶべっ」


「そーなのよぉ!この子ったら今でも呼んでくれてすっごくかわいいのっっっっ!」



せっかく離してもらえたのにまたねえねの胸に逆戻り。


みんなに助けを求めようとするも視線すら合わせられない。無念。



「・・・そのくらいにしとけ、ゆみ」


「あっ!そうよね!!」



太陽が呆れつつも助け舟を出してくれて、ようやく私は窒息から逃れた。



「じゃあまず、状況確認からいこうか」


「そうだな」



肇とゆうたが言った。


そう、そのために来たんだった。



「これが、一ノ瀬組のやり取り」



私は持って来たノートパソコンにデータを表示させた。


だがこれには穴がある。



『宣戦布告だよ』



この前、私たちは宣戦布告だと言った。


つまり、「あの夜の出来事は私たちの予定に概ね沿ったものだった」と言ったようなもの。


となると、向こうだってメッセージを傍受されている可能性に気づくはず。


そこで私は昨日徹夜して、この表面のメッセージデータを囮にして密やかに交わされている連絡の傍受を試みた。


成功した。「殺し屋アルケー」の情報収集係にも手伝ってもらった甲斐があったよ。


嗣翠には徹夜がバレて無理矢理寝かせられたりしたけど。



「で、こっちが本命のやり取りね」



新たなデータを確認する。


重要な連絡はやっぱり組長室で話してたっぽいけど、マイクがある機械――つまりスマホとかパソコンさえあれば会話は聞ける。


嗣翠曰く使ってないけど新しいパソコンがここ数年組長室に置きっぱなしって話だった。


苦労したけど盗聴には成功している。



「組の中に味方はいない。組長が恐ろしすぎて逆らう勇気がないみたい」


「まあ、だろうな」



肇が苦い顔をした。


実際に緋玉を見て、肇もあまりの不気味さにお祓いしたくなったらしい。



「でも勇気がないだけ。幹部にも、組長派の幹部の部下にも若頭派は一定数いる」


「戦況が有利になった段階で寝返らせるような仕掛けもするべきだな」


「そゆこと」



ただそれだと、まだあまりにも数が足りない。


緋玉をぶっ潰したら、一ノ瀬組は若頭派だけになるわけだし、このままじゃ足りない。


だから。



「交戦開始を以て『殺し屋アルケー』は廃業し、一ノ瀬組若頭派に参加することに全員が同意した」



肇が、私の思考を読んでそう報告してくれた。


見事な満場一致。「殺し屋アルケー」の人数だったら大きな有利を取れる。


量も質も問題ない。



「組長派についてるサイバー系については『殺し屋アルケー』の情報収集係と私、『ベルガモット』が対応する」


「俺は全体の指揮と父の処理、か」



私と嗣翠がお互いの役割を確認した。


ここまでは大丈夫そうだ。あとは・・・。



「ねえね、ゆうた」


「ええ」


「おう」


「私には、『八神 椿』には友達が2人いるの」



八神 椿は殺し屋「アルケー」だった。


そうなると私も完全に敵判定だ。


私と仲がいい人を交渉材料に持ってこないとも限らない。



「松本 りかと吉田 晴哉。その2人を守ってほしい」


「ああ、任せろ」


「つばきの友達なら、必ず」



あの2人は学校で私に「普通」と「友達」をくれた。


大好きな、大好きで大切な、親友だ。


今は2人とも焦ったい恋をしている。その恋路は、私の私情で邪魔されていいものじゃない。


だからこそ2人は、守ってもらわなくては。


自分で守れないのがもどかしいけど、ねえねとゆうたの実力は信用できる。



「肇、太陽」


「俺たちは嗣翠の補佐と戦闘、か」


「死なないでよ」


「当然」



・・・もうすぐだ。


誰にもバレないように深呼吸しながら、私は思いを馳せる。


宣戦布告をした以上、もう時間はあまり残っていない。


こちらの準備はだいたい整った。向こうも似たようなものだろう。


そう。・・・・・・もうすぐなのだ。


そう思っていると、突然、手が重なった。



「・・・?」



見てみると、嗣翠が私の手を掴んでいる。


私が息を詰めていたのがバレたらしい。


・・・彼にはだんだん、何もかも隠せなくなっている。


徹夜とかほとんど見抜かれるし、深呼吸でさえバレるならもう私は何も隠せないんじゃないかな。


感心しているうちにも、嗣翠は話を進めていく。



「父がいつ動くかはわからない。だけど先手を取られないようにする必要がある」


「そうね」


「警戒を怠らないように。絶対勝とう」



そうまとめる嗣翠の瞳は、真っ直ぐと、一ノ瀬組の本拠がある場所を見ていた。


・・・本当に、決着は、もうすぐなんだ。