私にもあっただろうか。
両親と,もしくは片方と。
手を繋いで,はしゃいで,怖がって,そんな動物園の記憶が。
どこかに,残っていたらいいのに。
「泣きたいですか」
「なにを」
「泣きたくない?」
「当たり前でしょ。だいたい涙には理由が」
するりと頬に近づけられててのひらからツンと逃げるように顎を逸らす。
すると,まだ話しているというのに,彼は私を正面から包んだ。
ほんとに,話を聞かない人。
ちっとも最後までいわせてくれない。
「じゃあ,泣かないでくださいね」
ぎゅっと,感じる体温が増す。
それは,人の温もりだ。
いつか何度も欲しいと願った。
だけど
「やめて」
ぐっと突き放す。
私には彼の考えがちっとも分からなかった。



