遮ってくる璃空に,私も思わず止まってしまう。
その隙をつくように,彼は当たり前の顔をして口を開いた。
「あの悲しみは,本物に見えたから」
なによ。
女優の私どころか,"鮫島 ニ虎"すら知らないくせに。
「もういいわ。来たからには入りましょう……あなたも。私が誘ったみたいなものだから」
「そっ……か。僕,買ってきます。ニ虎さんはただ楽しんでくれたらそれでいいので」
彼はそういうと,綺麗なフォームで走り出す。
取り残されるのも癪なので,私は彼の背中をゆっくりと追った。
動物園内はなんだか慣れない匂いがして,見て回る場所はところどころうるさくて。
だけど不思議と,嫌いにはなれなかった。
彼も,案外気が利いて,紳士的な態度で。
不覚にも,一緒にいて面白い人だった。
彼に誘われて,観覧車に乗り込む。
夕焼けが,とても綺麗だと思った。
「動物園にも,観覧車なんてあるのね」
「来たことなかったの?」
「うん。……動物園なんて」



