とんっと肩に手をおいて,顔を近づけた。
ますます真ん丸になった彼の瞳を少し可愛く思いつつも,とんともう一度叩く。
この人,ほんとに綺麗だわ。
同い年くらいかな。
妖しくなった空気を裂くように,私の口からふうと声が漏れた。
「なんてね。言ったでしょ。あれは撮え」
私は女優だもの。
がしっと。
掴まれた肩がぐわんと上がる。
な,なに?
とっさに離れようにも,動けない。
「いいよ」
「え?」
「だから,いいよ」
今度はまた私が目を丸くする番だ。
「おねーさん,綺麗だから。僕が慰めてあげる」
手首を引かれ,ふわりと一瞬,ソフトに後頭部から抱き締められて,私は硬直した。
耳元に落とされた言葉を確かめるように反芻する。
な
なんで……あんだがその角度でこれるの……???
相手は大女優だって,分かってるの?
「ここで,終わるまで待ってますね。撮影,頑張ってください」
するりとほどかれた指先。
私はなにも返すことが出来ないまま,彼に背を向けた。
なに,なに……?
自分で言い出した手前,動揺が止めどない。
すたすたと現場に向かいながら,頭のなかはぐるぐると回っていた。
どうして。
嘘だって,全部演技だって言ったのに。
どうして。



