「他にも近場にトイレくらいあったでしょうに……どうして看板を乗り越えてまでスタッフに?」
「あーー……看板? もしあったのだとしたら,多分気付かなかったんだと思います」
「でも,カメラやなんやあれば私達の会話が撮影だってことくらい分かるでしょ?」
「カメラには気付いてたよ。だから何かやってるんだな~って。話し声が聞こえたから行ったんだけど,まさかそれを撮ってるなんて思わなくて」
ようやく私の言葉に通ずるものがあったのか,にこにこと答えられて,かえって返す言葉も見つからない。
もういいわとスタッフを帰すと,意図せず私は彼と二人になった。
私は映画でヒロインの親友役を得られるくらいには,名のある女優。
こんな風に軽く会ってはいけないのに。
「ごめんね。怒りましたよね……? あんまりリアルで,目が離せなくて。止めなくちゃって思っちゃったんです」
「……そりゃそうよ」
馬鹿だわ,この人。
そんなの当たり前じゃない。
だって
「あのセリフは私の気持ちそのものだもの」
「……え?」
彼は目の前に立つ私を見上げる。
「助けてくれるって言うなら……あなたが私を慰めてくれる?」



