掴まれた手を掴み返すようにぐるりと回し,ぐいぐいと引っ張る。
男は無抵抗に連れられた。
「なんのつもり?」
「いや,だって」
「ここは撮影中なの。一般人は入れなかったはず」
「え,でも」
振り返った先には,ぱたぱたと走ってくるスタッフの姿。
不審に思っていると,スタッフは私の前でがばりと頭を下げた。
「すみません……!! トイレの場所を聞かれたので案内中だったのですが,途中で走り出してしまい……」
「どうして案内を? このエリアは今一般人立ち入り禁止だったはずでしょ」
「そ,そうなんですけど……あまりにも普通に声をかけられ……その,顔やファッションからも……」
ちらりと同じ様に案外大人しい彼を見る。
なるほどね。
私ははぁとため息をついた。
彼の顔立ちは中々に整っていた。
鼻はスッと通っているし,薄い唇も,その割にくりくりとアーモンド型の瞳も。
「ちょっと立ってみてくれる?」
背が高く,スラッとした手足も。
黒と白を上手く組み合わせたファッションも。
「もういいわ」
関係者かその連れだと思っても仕方ない,と言えなくもない。



