翌週の金曜日。
花純は仕事を終えると52階へ上がり、光星と一緒にオフィスビルを出る。
まずは車でブティックに向かった。
「上条様、お待ちしておりました」
ブラックのスーツ姿のスタッフが5人ほど並んで、光星にうやうやしく頭を下げる。
「パーティーの支度をお願いします。先に彼女を」
「かしこまりました」
光星に見送られて、花純はスタッフと一緒に2階に上がった。
「お嬢様、ドレスのご希望はございますか?」
「私の希望はないのですが、上条社長の株を下げないようにしたくて……」
「あら、ご謙遜を。きっと上条様が惚れ直されますよ。こちらのワインレッドのタイトドレスはいかがですか?」
ノースリーブでサイドに深いスリットも入ったドレスを掲げられ、花純はブンブン首を振る。
「無理です、ダメです。あの、黒とか紺で、足が隠れるものをお願いします」
スタッフは少し残念そうにしたあと、別のドレスを持って来た。
「こちらはいかがでしょう。胸元と七部袖はブラックの総レースでオフショルダー、ウエストの切り替えでスカートは張りのあるシルクタフタでございます。色もグラデーションで、裾にいくほど徐々にシャンパンゴールドが濃くなっています。丈は膝が隠れる長さでございますよ」
「わあ、素敵ですね」
花純は上質のドレスにうっとりする。
「どうぞ、ご試着なさってみてください。きっとお似合いになりますよ」
促されて、ドキドキしながらそっと腕を通してみた。
サイズもぴったりで着心地が良く、鏡の中の自分が知らない人のように思える。
「まあ! なんてお美しい。早速ヘアメイクも整えましょう。こちらへどうぞ」
あれよあれよと手を引かれてドレッサーの前に座ると、手際良く髪を巻いてアップでまとめられた。
メイクも念入りに大人っぽく仕上げられ、アクセサリーやバッグ、靴も揃えてもらう。
花純はもはや、着せ替え人形の気分だった。
「はあ、もううっとりします。上条様にも早く見ていただきましょう」
高いヒールの靴に足元を気にしながら階段を下りていると、「花純……」と光星が呟く声がした。
顔を上げると、艶のあるスリーピースのスーツをスタイル良く着こなし、髪もサイドをすっきりと整えた光星の姿に、花純は思わず足を止める。
(光星さん、すごくかっこいい)
ぽーっと見とれていると、同じように光星も目を見張ったまま立ち尽くしている。
まるで二人同時に恋に落ちた瞬間のようだった。
「……花純、すごく綺麗だ」
「光星さんも。とっても素敵です」
ようやく言葉を交わすと、光星は階段を上がって花純に手を差し伸べる。
「ありがとう」
そっと手を重ねて微笑み合い、花純は夢見心地で階段を下りた。
「どうぞ素敵な夜を」
スタッフに見送られ、二人で車に乗り込む。
と、光星はハンドルに両腕を載せて斜めに花純を見つめた。
「花純、帰ろうか」
は?と花純は目を丸くする。
「どうしてですか? パーティーは?」
「行きたくない。こんなに綺麗な花純を、俺以外の男には見せたくない。ひとり占めしたいんだ」
「そんな……、ダメです。光星さん、社長なんですよ? ちゃんとパーティーに行ってください」
すると光星は、渋々頷いてエンジンをかけた。
かと思うと、また花純をじっと見つめる。
「光星さん? ダメですよ、帰っちゃ……」
言い聞かせるように振り向いた途端、光星はいきなり左手で花純を抱き寄せ、熱く口づけた。
驚いて目を見開いていると、光星はチュッとかすかな音を立てて唇を離す。
「忘れないで。花純は俺のものだ」
そう言って親指で花純の唇に触れる。
「この唇も、綺麗な身体も、触れていいのは俺だけだ。いい?」
顔を寄せてささやかれ、花純は頬を赤く染めて頷く。
光星はふっと笑みを浮かべると、耳元にチュッとキスをした。
「愛してる」
甘い言葉が鼓膜に響き、花純は目を潤ませる。
そんな花純にクスッと笑ってから、ようやく光星は車を発進させた。
花純は仕事を終えると52階へ上がり、光星と一緒にオフィスビルを出る。
まずは車でブティックに向かった。
「上条様、お待ちしておりました」
ブラックのスーツ姿のスタッフが5人ほど並んで、光星にうやうやしく頭を下げる。
「パーティーの支度をお願いします。先に彼女を」
「かしこまりました」
光星に見送られて、花純はスタッフと一緒に2階に上がった。
「お嬢様、ドレスのご希望はございますか?」
「私の希望はないのですが、上条社長の株を下げないようにしたくて……」
「あら、ご謙遜を。きっと上条様が惚れ直されますよ。こちらのワインレッドのタイトドレスはいかがですか?」
ノースリーブでサイドに深いスリットも入ったドレスを掲げられ、花純はブンブン首を振る。
「無理です、ダメです。あの、黒とか紺で、足が隠れるものをお願いします」
スタッフは少し残念そうにしたあと、別のドレスを持って来た。
「こちらはいかがでしょう。胸元と七部袖はブラックの総レースでオフショルダー、ウエストの切り替えでスカートは張りのあるシルクタフタでございます。色もグラデーションで、裾にいくほど徐々にシャンパンゴールドが濃くなっています。丈は膝が隠れる長さでございますよ」
「わあ、素敵ですね」
花純は上質のドレスにうっとりする。
「どうぞ、ご試着なさってみてください。きっとお似合いになりますよ」
促されて、ドキドキしながらそっと腕を通してみた。
サイズもぴったりで着心地が良く、鏡の中の自分が知らない人のように思える。
「まあ! なんてお美しい。早速ヘアメイクも整えましょう。こちらへどうぞ」
あれよあれよと手を引かれてドレッサーの前に座ると、手際良く髪を巻いてアップでまとめられた。
メイクも念入りに大人っぽく仕上げられ、アクセサリーやバッグ、靴も揃えてもらう。
花純はもはや、着せ替え人形の気分だった。
「はあ、もううっとりします。上条様にも早く見ていただきましょう」
高いヒールの靴に足元を気にしながら階段を下りていると、「花純……」と光星が呟く声がした。
顔を上げると、艶のあるスリーピースのスーツをスタイル良く着こなし、髪もサイドをすっきりと整えた光星の姿に、花純は思わず足を止める。
(光星さん、すごくかっこいい)
ぽーっと見とれていると、同じように光星も目を見張ったまま立ち尽くしている。
まるで二人同時に恋に落ちた瞬間のようだった。
「……花純、すごく綺麗だ」
「光星さんも。とっても素敵です」
ようやく言葉を交わすと、光星は階段を上がって花純に手を差し伸べる。
「ありがとう」
そっと手を重ねて微笑み合い、花純は夢見心地で階段を下りた。
「どうぞ素敵な夜を」
スタッフに見送られ、二人で車に乗り込む。
と、光星はハンドルに両腕を載せて斜めに花純を見つめた。
「花純、帰ろうか」
は?と花純は目を丸くする。
「どうしてですか? パーティーは?」
「行きたくない。こんなに綺麗な花純を、俺以外の男には見せたくない。ひとり占めしたいんだ」
「そんな……、ダメです。光星さん、社長なんですよ? ちゃんとパーティーに行ってください」
すると光星は、渋々頷いてエンジンをかけた。
かと思うと、また花純をじっと見つめる。
「光星さん? ダメですよ、帰っちゃ……」
言い聞かせるように振り向いた途端、光星はいきなり左手で花純を抱き寄せ、熱く口づけた。
驚いて目を見開いていると、光星はチュッとかすかな音を立てて唇を離す。
「忘れないで。花純は俺のものだ」
そう言って親指で花純の唇に触れる。
「この唇も、綺麗な身体も、触れていいのは俺だけだ。いい?」
顔を寄せてささやかれ、花純は頬を赤く染めて頷く。
光星はふっと笑みを浮かべると、耳元にチュッとキスをした。
「愛してる」
甘い言葉が鼓膜に響き、花純は目を潤ませる。
そんな花純にクスッと笑ってから、ようやく光星は車を発進させた。



