本当の愛を知るまでは

風呂上がりの光星をソファに座らせると、花純は傷口を消毒してガーゼを交換する。

「痛みますか?」
「いや、もう平気だ」
「良かった。早く治りますように」

最後にそっとガーゼの上から手を添えて呟くと、光星はそんな花純を抱き寄せた。

「花純、ここに来てくれてありがとう。俺は今、すごく嬉しくて幸せだ。だけど花純、決して無理だけはしないで。家事なんてやらなくても構わない。花純だって仕事で疲れてるんだから。それと、一人になりたかったらいつでも部屋で過ごして」
「光星さん……」

きっと以前話した結婚観のことを、覚えてくれていたのだろう。
花純は光星の気遣いにホッとする。
夕べ不安だった気持ちも、どこかに消え去った気がした。

「ありがとう、光星さん。こんなにも私を大切にしてくれて」
「これくらい当たり前だ。それより花純、俺に遠慮せずいつでも本当の気持ちを伝えて。前に二人で話しただろ?恋愛はどちらかが教えるものじゃない、二人で積み重ねていくものだって」
「はい、ちゃんと伝えます。それに私も、光星さんの本音を聞かせてほしいです」
「ああ、俺も素直に気持ちを伝える。今はただ、花純が好きだ」

え……、と花純は不意をつかれて赤くなる。

「花純がここにいてくれて嬉しい。心から君が好きだよ」
「光星さん……。私もあなたが大好きです」
「花純……」

光星は花純を抱き寄せて、何度も深く口づけた。
徐々に花純の口から甘い吐息がこぼれ、光星に身体を委ねていく。
最後にチュッとついばんでから唇を離すと、光星は花純と額を合わせた。

「花純、もう自分の部屋に行きな。ここから先は止められなくなるから」

すると花純は、寂しそうにうつむく。

「花純? どうかした?」
「あの、光星さん」
「なに?」
「私、自分の部屋に行かなくちゃ、ダメ?」

上目遣いでそっと尋ねる花純に、光星の思考回路が止まる。

「それって、どういう……」
「光星さんの部屋で、一緒に寝ても……いい?」
「花純……」

一瞬の間のあと、光星は花純の唇を荒々しく奪う。

「もちろんだ。片時も離してやらないから、覚悟して」

ギラッと瞳に何かが宿ったような光星に、花純は思わず息を呑む。
光星は花純を抱き上げると、寝室に向かった。

「光星さん! ダメ、傷口が開いちゃうから降ろして」
「これくらい、どうってことない」
「でも、まだ激しい運動とかしたらダメって、お医者さんに……」

光星はお構いなしに花純をベッドに横たえると、両手をついて覆い被さり、花純にグッと顔を寄せる。

「花純、激しいのを期待してるの?」
「ちがっ……」

真っ赤になりながら、必死に首を振って否定する花純に、光星はクスッと笑った。

「可愛いな、花純。心ゆくまでたっぷり愛させて」

そのあとはもう、言葉を交わすことはない。
見つめ合い、キスを交わし、抱きしめ合って愛を伝える濃密な時間。
この温もりさえあれば、他には何もいらない。
心が満たされ、幸せで胸が震える。

二人は時間も忘れ、これ以上ないほど互いを求め合っていた。