本当の愛を知るまでは

「ただいま……。ふう、疲れた」

ひとり暮らしのワンルームマンションに帰ると、花純はスプリングコートを脱いでソファに座った。

「晩ご飯、どうしようかな」

ぼーっと宙を見ながら考える。
自分一人の食事なんて適当に済ませたくなるが、なるべく毎日自炊するようにしていた。

(疲れてても彼とつき合い初めの頃は、張り切って料理してたな)

今は恋人はいない。
同い年の彼と大学の4年間つき合っていたが、社会人になって半年後に別れた。
「仕事より、俺との時間を優先してほしい」
そう言われて気持ちが冷め、別れを決めた。

(でもよく考えたら、なんか立場が逆じゃない? 『仕事と私のどっちが大事なのよ』って彼女に言われて、うんざりした男の人みたい)

ストレートの黒髪にきっちりオフィススタイルでいるせいか、控えめで大人しいと周りから言われることが多いけれど、案外自分の性格は男っぽいのかもしれない。

その彼と別れてから恋愛が煩わしくなり、告白されても断ってきた。
28歳になった今も結婚願望はない。

(一人の方が気楽でいいもんね。時間を好きなように使えるし。って、これも男性っぽい考え方かな?)

ふふっと笑ってから立ち上がり、キッチンで親子丼とみそ汁を作った。
いただきますと手を合わせて食べていると、ふとカバンの横に置いた紙袋が目に入る。

(そうだ! いただいたお菓子、早速あとで食べよう)

食事を終えると紅茶を淹れ、わくわくしながら箱を取り出した。
そっと開けると、ブルーベリータルトと白いマカロン、桜の花びらのアイシングクッキーが入っている。

「え、種類が違うんだ。これも素敵!」

じっくり眺めてからスマートフォンで写真を撮る。
一番気に入った花びらのアイシングクッキーの写真を、メッセージアプリのアイコンに設定した。

「うん、可愛い。春らしくていいな」

満足気に画面を見つめてから、心置きなくお菓子を味わう。

(はあ、幸せ。どこのお店のお菓子なんだろう? 気になるな)

紙袋と箱も見返してみたが、無地でロゴや店名も書かれていなかった。
ますます気になって仕方なくなり、花純はクロスリンクワールドのホームページを開いてみる。

(さすがに洋菓子店は経営してないか。でもすごいな、こんなに有名なアプリやサイトをいくつも運営してるなんて。芸能人やインフルエンサーが使ってるSNSもある)

ページを次々開いていると、会社概要に『代表取締役社長 上条 光星』と書かれていた。
部長が言っていた通り、写真はない。

(もしあったら、女性に言い寄られて大変そう。だから敢えて載せてないのかな? 彼女に止められたとかで。あ、もし結婚してたら奥さんか)

でも社長が若くてイケメンだと話題になれば、それだけ会社も注目されるから悪いことばかりではなさそう……と考えたところで苦笑いする。

(いやいや、私なんかが心配したところで余計なお世話だよね。あはは……。さてと! お風呂に入って早く寝よう。明日も早めに出社したいし)

花純はスマートフォンを置くと立ち上がり、バスルームに向かった。