本当の愛を知るまでは

その日は、支店長とのミーティングがある日だった。

「森川さん、またカフェのコーヒーデリバリー頼めるかな?」
「はい、かしこまりました。手配しておきます」

部長に頼まれた花純は、カフェに電話をして、デリバリーを頼んだ。
時間になると、千鶴と原と一緒に会議室に移動して準備を始める。
しばらくして滝沢がコーヒーを届けに来た。

「ありがとう、滝沢くん」

コーヒーを並べ始めた花純を手伝おうと、千鶴が手を伸ばすと、花純が笑顔で首を振った。

「大丈夫、一人で出来るから」

そう言って黙々と並べていく花純を、千鶴は言葉もなく見つめる。
すると隣で滝沢が小さく話しかけてきた。

「ねえ、杉崎さんさあ。もったいなくない? せっかく両思いだったのに」
「はあ? 何言ってんのよ。私、あっさりフラれたのよ? 完全な私の片思い」
「違うよ、杉崎さんがフッたんだ。森川さんを」

え……と、千鶴は真顔になる。

「どういう意味よ?」
「あんなに仲良かったのに、杉崎さんと森川さん。相思相愛だったでしょ? 杉崎さんが失恋したのは上条さんにじゃない。森川さんにだ」
「滝沢、あんた何言って……」
「じゃあ考えてみてよ。杉崎さんにとって、失ったら困る存在ってどっち? 上条さんか、森川さんか」

千鶴はハッとする。
そんなの……と言い淀んでから、千鶴は顔を上げてきっぱり言った。

「考えるまでもないわ。決まってるでしょ?」

滝沢は、ニッと笑う。

「やっぱベタ惚れじゃん」
「当たり前よ。何年のつき合いだと思ってんの?」
「ははっ、愛が重いねえ」

千鶴はふっと表情を緩める。

「ありがとね、滝沢」
「どういたしまして。あー、俺も誰かにベタ惚れされてえ」

そう言いながら、滝沢は会議室を出て行った。