本当の愛を知るまでは

『もしもし、花純? もうマンションに着いた?』

ある夜、久しぶりに光星から電話があった。

「はい、着きました」
『良かった。メッセージの返事がないから、心配してた。最近忙しそうだね』
「そういうわけでは……」
『そう? それなら明日、どこかで夕食でもどう?』
「あの、明日はちょっと……」
『そうか、分かった』

残念そうにそう言うと、光星は優しく『花純』と呼ぶ。

「はい」
『何か悩んでる? 良かったら、話してほしい』
「えっ……」

思いがけない言葉に目が潤む。
最近、光星を避けている自覚があった。
千鶴とのことで恋愛に対する気持ちが冷めたと思っていた。
けれど光星の温かさが電話でも伝わってくる。

(私はこんなにもそっけない態度を取ってしまっているのに、光星さんは……)

声を押し殺して涙を流す。

『花純? どうした?』
「……何でもないの。あの、時間が出来たら連絡します」

光星はしばし押し黙る。
様子がおかしいと感じているのが分かった。

「光星さん、ごめんなさい。少しお時間ください」
『……そう、分かった。花純、何かあればいつでも電話しておいで』

優しい声にすがりつきたくなるが、今は出来ない。

「はい。ありがとうございます」
『じゃあね、ゆっくり休んで。おやすみ』
「おやすみなさい」

電話を切ったあとも、花純はスマートフォンを胸に当ててしばらく泣き続けた。