本当の愛を知るまでは

「もしもし、お忙しいところ突然のお電話で失礼いたします。わたくし、株式会社シリウストラベルの森川と申します」

花純は自分のデスクで、クロスリンクワールドの代表番号に電話をかけてみた。
丁寧な口調の電話口の女性に挨拶に伺いたいと話すと、しばらく保留されたあとに明るく返事が返ってきた。

「ご丁寧にありがとうございます。社長が、こちらこそご挨拶させていただきたいと申しております。つきましてはお手数ですが、1階のレセプションでビジターカードを受け取っていただき、高層階エレベーターで52階までお越しいただけますでしょうか?」
「はい、承知いたしました。それではこれから伺いますので、よろしくお願いいたします」
「はい、お待ちしております」

電話を切ると部長に話し、手土産の紙袋を手に二人でオフィスを出た。

「部長、こちらでしばらくお待ちください」

1階に下りると花純は部長にそう断って、タタッとレセプションに向かう。
ビジターカードを受け取ると部長を促し、高層階用のエレベーターに乗った。
カードリーダーにカードをかざしてから、52階のボタンを押す。

「へえ、森川さんよくやり方知ってるね」
「は、はい。まあ」

なんとなく笑顔でごまかす。
最上階に着いて扉が開くと、待っていた様子のスーツ姿のキリッとした男性が深々と頭を下げた。

「この度はご足労いただき、ありがとうございます。社長秘書の臼井と申します。社長室までご案内いたします」
「こちらこそ、ありがとうございます」

部長とお辞儀をしてから、男性のあとをついていく。
向かった先は、今朝案内されたあの部屋だった。

(え……、まさか)

花純が戸惑っていると、秘書の臼井がドアをノックした。

「社長。シリウストラベルの方をお連れしました」
「どうぞ」

中から聞こえてきた声にも覚えがある。

(社長!? まさか今朝の人って……)

開かれたドアの向こうに、あの人がいた。