本当の愛を知るまでは

「ではでは、かんぱーい!」

千鶴が明るくグラスを掲げ、丸テーブルで4人は乾杯する。

「はあー、仕事終わりのビールって最高!」
「杉崎さんはいつ飲んでも最高! って言ってそう」
「何をー? 生意気な。ちゃんと仕事がんばったんだからね!」
「はいはい」

千鶴と滝沢は言い合いながら、一品料理を選び始めた。

「社長は何を召し上がりますか?」
「ん? お任せするよ」
「はーい。じゃあ、私のおすすめを頼んじゃいますね」

千鶴と滝沢がスタッフに次々とオーダーしていく。
すると隣の席から、光星が人差し指でトントンと花純の左肘に触れた。
え?と花純がその手を見下ろすと、光星はスルリとテーブルの下で花純の手を繋いだ。
キュッと力を込めて握られ、花純は頬を赤く染める。
視線を上げて光星に目で抗議すると、クスッと軽く笑ってかわされた。

「ん? 花純、酔うの早いね。もう顔赤いよ」
「え? ああ、そうかも」

千鶴に言われて、花純は慌てて右手で頬を押さえる。
熱を持った頬を手の甲で冷ました。

(もう、どういうつもりなの?)

光星の気持ちが読めない。
毎日メッセージはくれるが、デートや会う約束はないまま、花火の日から3週間が経とうとしていた。
朝エレベーターホールで会った時も、軽く会話をするだけで何事もない。

つき合っていても、やっぱり本気ではないのだ。
「本物の恋愛をこれから君に教える」
その言葉はきっとゲーム感覚だったのだと、最近は思うようになっていた。

けれど、それならなぜこんなふうに触れてくるのだろう?

(私って本当に恋愛に向いてない。楽しいどころか、悩んだり不安になることの方が多いもん)

その時、繋いだ手を光星がキュッと引いた。
顔を上げると、どうした?と目で尋ねてくる。
花純は小さく首を振った。
気を許せば涙が溢れそうで、じっとうつむいたまま唇を結ぶ。

オーダーを済ませた千鶴が、身を乗り出して光星に質問し始めた。