本当の愛を知るまでは

「お帰り。これからまた仕事か?」

花純のマンションからオフィスに戻ると、片づけをしていた臼井が顔を上げる。

「ああ。お前はもう上がってくれ。遅くまで悪かったな」
「いや。森川さんはいつも喜んで食べてくれるから、作りがいがあるよ。それより大変だな、光星。彼女との時間を捻出する為に残業か」
「これくらい、どうってことない」
「へえ、なんか珍しいな」

光星はパソコンを立ち上げながら尋ねた。

「珍しいって、何が?」
「お前の方からデートの時間を作るのが。いつも受け身で、相手から言われるまで動かなかったじゃないか。それだけ森川さんは特別ってことなんだろうな。良かったな、つき合うことになって」
「ああ……」
「ん? どうした。なんかあんまり嬉しそうじゃないな」
「そうじゃないけど……」

言葉を濁すと、臼井は手を止めて聞き返してきた。

「けど、なんだ?」
「……戸惑ってる。俺といて本当に楽しいと思ってくれてるのかって。何をしたら喜んでくれるだろう。そう考えると、自信がない」

へえ!と、臼井は意外そうな声を上げる。

「お前がそんなこと言い出すなんて、初めてじゃないか? ピュアだなー、初恋か?」
「バカ! もう34だぞ? 俺」
「いいじゃないか、歳なんて関係ない。ようやくほんとに好きな相手を見つけられたんだな、光星」

大事にしろよ、お前の織姫を、と言い残して、臼井は帰って行った。