本当の愛を知るまでは

「お料理、どれもとっても美味しいですね」

メインディッシュが運ばれてくると、花純は笑顔で味わった。

「君は苦手な食べ物はないの?」
「ありません。シイタケ以外は」
「ははっ、あるんじゃない。シイタケか。それも、本当に美味しいシイタケを、まだ食べたことがないだけじゃない?」
「美味しいシイタケなんて、あるんですか?」
「あるよ。ははは! 君、真面目そうに見えて、ほんとに面白いね。嬉しい誤算だな」

楽しそうに笑ってから、光星は花純に微笑みかける。

「これから一緒に色んなところに行って、色んな気持ちを共有して、二人の時間を重ねていきたい」
「はい。よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ」

二人きりはまだ慣れない。
けれどいつか、二人のこの時間が心地良くなるのかな?

そんなふうに思いながら、花純は頬を赤らめていた。

食事が終わると、光星は車で花純のマンションまで送る。

別れ際に連絡先を交換した。

「このアイコン、臼井の作ったクッキー?」
「はい、そうです」
「……妬けるな。俺には出来ないから」
「え?」
「いや、何でもない」

光星は車を降りると、外から助手席のドアを開けて花純に手を差し伸べる。
光星の手を借りて降りた花純は、改めて向き直った。

「今夜は美味しいお料理をごちそうさまでした。送ってくださってありがとうございます」
「こちらこそ、楽しい時間をありがとう。また連絡する」
「はい。それでは」

お辞儀をしてエントランスに向かおうとした花純を、光星が呼び止める。

「待って、忘れ物」
「え?」

振り返った途端、花純はグッと光星に抱き寄せられた。
額にそっとキスが落とされ、耳元でささやかれる。

「おやすみ。またね、花純」

言葉もなく真っ赤になる花純にふっと笑い、光星はまた耳元でささやいた。

「早く行きな。でないと帰してやれなくなる」
「は、はい。おやすみなさい」
「おやすみ。良い夢を」

するりと光星の腕から逃れて、花純は小走りにエントランスに入る。
振り返ると、優しく微笑んでいる光星に小さく手を振り、エレベーターに乗った。