どこに行くのだろうと思っていると、着いた先は海に面したラグジュアリーなホテルだった。
ロータリーでバレーパーキングのスタッフに車を託し、光星は花純の手を取って歩き出す。
「あの、上条社長」
「ん?なに」
「手が……、繋がってます」
「ははっ、そうだね」
「離していいですか?」
すると光星はギュッと握る手に力を込めて、花純の顔を覗き込んだ。
「ダメ」
花純はピキッと固まる。
光星は楽しそうに花純の手を引いてエレベーターに乗り、最上階のフレンチレストランに入った。
案内された個室でようやく手を開放され、花純はふう、と息をつく。
スタッフが引いてくれた椅子にそっと腰を下ろした。
窓の外には綺麗な夜景が広がっている。
「海がすぐそこなんですね。月明かりでキラキラして綺麗……」
花純はうっとりと見とれた。
「上条社長のオフィスは空に近くて素敵だけど、ここは海に近くてそれもまたいいですね」
「そうだね。景色に酔いしれてるところ悪いけど、君のお酒は何にする?」
スタッフが差し出したアルコールメニューを見ながら、光星が尋ねる。
「いえ、社長が運転されるのですから、私もノンアルコールで」
「気にしなくていい」
「ですが、社長はシラフで私だけ酔うのは恥ずかしいので」
「へえ。酔うとどうなるの? 見てみたい」
「お見せするようなものでは……」
「でも、滝沢くんとは飲んでた」
ポツリと呟かれた声に、花純が、え?と聞き返すと、光星はアルコールメニューを閉じた。
「じゃあ、ノンアルコールのシャンパンでいいかな?」
「はい、もちろん」
スタッフはメニューを受け取ると、うやうやしく頭を下げて退室する。
二人きりになり、花純は姿勢を改めて話を切り出した。
「あの、社長。確認させていただきたいのですが……」
「しっ……」
光星が人差し指を唇の前にやり、花純は言葉を止めた。
「その社長って呼び方はナシ」
「ですが、社長は社長ですから」
「君の上司ではないよ。それに俺たちは恋人同士だ」
「それなんですけど、ちょっと腑に落ちなくて。恋人同士って、世間一般で言う、あの恋人ですか?」
「ん? あの恋人がどの恋人か知らないけど、まあそうだろうね」
その時スタッフが戻って来て、二人のグラスにコポコポとシャンパンを注ぐ。
「では、二人の夜に、乾杯」
ノンアルコールなのに、花純は思わずポーッと光星に見とれてしまう。
(いけない。ちゃんと聞かなきゃ)
スタッフがスープとパンを用意するのを横目で見ながら、花純は頭の中で考えをまとめた。
「社長が昨日おっしゃっていたのは、本当の愛を言葉ではなく、実際に身体で分からせる、ということでしょうか?」
ピタ……と、焼き立てパンをトングで花純の皿に置いていたスタッフの手が止まる。
「それでは、失礼いたします」
まだ光星の皿にはパンを載せていないのに、スタッフはスタスタと立ち去った。
花純は昨日のやり取りを思い出しながら、話を続ける。
「社長は、私がまだ本物の恋愛をしていないのが問題点だとおっしゃいました。それをこれから教えてくださると。ですが、私がいつまで経っても理解出来ない可能性の方が大きいと思います。ですので見込みがないと判断された時には、社長から関係を解消してください」
そう言うと、光星はゆっくりグラスを傾けてから花純を見つめた。
「分かった、そうしよう。その代わり俺からもお願いがある」
「何でしょうか?」
「俺たちは恋人同士だ。その意識を持っていてほしい。でなければ俺の伝えたいことが、きちんと伝わらないから」
花純は頭の中で噛みしめてから頷く。
「はい、分かりました」
「それと……」
一度うつむいてから光星は顔を上げ、真っ直ぐに花純の瞳を見つめた。
「俺から関係を解消することはない。覚えておいて。俺は諦めない、君が愛を知るまではね」
ドキッとして花純は息を呑む。
「分かった?」
「は、はい」
真っ赤になってうつむくと、光星はクスッと小さく笑って目を細めた。
ロータリーでバレーパーキングのスタッフに車を託し、光星は花純の手を取って歩き出す。
「あの、上条社長」
「ん?なに」
「手が……、繋がってます」
「ははっ、そうだね」
「離していいですか?」
すると光星はギュッと握る手に力を込めて、花純の顔を覗き込んだ。
「ダメ」
花純はピキッと固まる。
光星は楽しそうに花純の手を引いてエレベーターに乗り、最上階のフレンチレストランに入った。
案内された個室でようやく手を開放され、花純はふう、と息をつく。
スタッフが引いてくれた椅子にそっと腰を下ろした。
窓の外には綺麗な夜景が広がっている。
「海がすぐそこなんですね。月明かりでキラキラして綺麗……」
花純はうっとりと見とれた。
「上条社長のオフィスは空に近くて素敵だけど、ここは海に近くてそれもまたいいですね」
「そうだね。景色に酔いしれてるところ悪いけど、君のお酒は何にする?」
スタッフが差し出したアルコールメニューを見ながら、光星が尋ねる。
「いえ、社長が運転されるのですから、私もノンアルコールで」
「気にしなくていい」
「ですが、社長はシラフで私だけ酔うのは恥ずかしいので」
「へえ。酔うとどうなるの? 見てみたい」
「お見せするようなものでは……」
「でも、滝沢くんとは飲んでた」
ポツリと呟かれた声に、花純が、え?と聞き返すと、光星はアルコールメニューを閉じた。
「じゃあ、ノンアルコールのシャンパンでいいかな?」
「はい、もちろん」
スタッフはメニューを受け取ると、うやうやしく頭を下げて退室する。
二人きりになり、花純は姿勢を改めて話を切り出した。
「あの、社長。確認させていただきたいのですが……」
「しっ……」
光星が人差し指を唇の前にやり、花純は言葉を止めた。
「その社長って呼び方はナシ」
「ですが、社長は社長ですから」
「君の上司ではないよ。それに俺たちは恋人同士だ」
「それなんですけど、ちょっと腑に落ちなくて。恋人同士って、世間一般で言う、あの恋人ですか?」
「ん? あの恋人がどの恋人か知らないけど、まあそうだろうね」
その時スタッフが戻って来て、二人のグラスにコポコポとシャンパンを注ぐ。
「では、二人の夜に、乾杯」
ノンアルコールなのに、花純は思わずポーッと光星に見とれてしまう。
(いけない。ちゃんと聞かなきゃ)
スタッフがスープとパンを用意するのを横目で見ながら、花純は頭の中で考えをまとめた。
「社長が昨日おっしゃっていたのは、本当の愛を言葉ではなく、実際に身体で分からせる、ということでしょうか?」
ピタ……と、焼き立てパンをトングで花純の皿に置いていたスタッフの手が止まる。
「それでは、失礼いたします」
まだ光星の皿にはパンを載せていないのに、スタッフはスタスタと立ち去った。
花純は昨日のやり取りを思い出しながら、話を続ける。
「社長は、私がまだ本物の恋愛をしていないのが問題点だとおっしゃいました。それをこれから教えてくださると。ですが、私がいつまで経っても理解出来ない可能性の方が大きいと思います。ですので見込みがないと判断された時には、社長から関係を解消してください」
そう言うと、光星はゆっくりグラスを傾けてから花純を見つめた。
「分かった、そうしよう。その代わり俺からもお願いがある」
「何でしょうか?」
「俺たちは恋人同士だ。その意識を持っていてほしい。でなければ俺の伝えたいことが、きちんと伝わらないから」
花純は頭の中で噛みしめてから頷く。
「はい、分かりました」
「それと……」
一度うつむいてから光星は顔を上げ、真っ直ぐに花純の瞳を見つめた。
「俺から関係を解消することはない。覚えておいて。俺は諦めない、君が愛を知るまではね」
ドキッとして花純は息を呑む。
「分かった?」
「は、はい」
真っ赤になってうつむくと、光星はクスッと小さく笑って目を細めた。



