「あの、私……」
「うん、なに?」
「私も、上条社長のことが気になっていました。お会いするたびにドキドキして、嬉しくて……」
光星は思わず頬を緩める。
それじゃあ、と口を開こうとした時、花純が言葉を続けた。
「ですが、おつき合いはお断りさせてください」
思わずハッと息を呑む。
「どうして?」とかろうじて尋ねた。
「いずれ私は、あなたを失望させてしまうからです。だったら最初からおつき合いしない方が、ご迷惑にならないと思うので」
「……ごめん。言ってる意味がよく分からない。どういうこと?」
真剣に問うと、花純は思い切ったように顔を上げた。
「私の中で、恋愛は大して大きな割合を占めていないんです。若い頃はそれでもおつき合い出来ましたが、この歳になるとそうもいきません。お相手の方はおつき合いの先に、結婚を意識するかもしれないからです。だけど私は、恋愛と結婚はまったく別の感覚なんです。結婚はお互いの条件が合う人と交わす契約、みたいに捉えています。変ですよね、すみません」
小さく頭を下げる花純に、光星は言葉が出て来ない。
「私もお相手の方も、まったく結婚するつもりがないならおつき合いも考えられますが、私はいずれお見合いで結婚しようと思っています。終わりの見えたおつき合いなんて、ご迷惑になるだけですから。本当に申し訳ありません」
「ちょ、ちょっと待って」
話を終えたようにお辞儀する花純を、光星は慌てて止めた。
「そんな理由では納得出来ない」
「えっ、どうしてですか?」
「なぜつき合ってもないうちから、そう決めつけるの? つき合っていくうちに気持ちがどう変化するかなんて、今は分からないはずだ」
「ですけど、私は人より恋愛感情が乏しくて。好きになっても、このままずっと一緒に生きていきたいとは思えないんです。結婚は好きとか愛してるって感情より、条件が合う相手とする方が上手くいくと思うので」
いやいや、と光星は手を差し出す。
「君、結婚したことあるの?」
「いえ、ないです」
「それならその考えは、思い込みの範疇だ。それに恋愛感情が乏しいなんて、単なる決めつけだよ。問題はそこじゃない」
「えっと、ではどこなんですか?」
「君はまだ本物の恋愛をしていない」
花純はキョトンと首をかしげた。
「本物の、恋愛? それって、どういうことでしょう」
「それをこれから君に教える」
「はい、お願いします」
「よし、交渉成立だ。じゃあ今日からおつき合いしていこう」
「……は? え? 教えていただけるのではないのですか?」
「教えるよ。言葉ではなく、実際にね」
狐につままれたような様子の花純に、光星は笑いかける。
「とにかく試しにつき合ってみて」
「試しに、ですか? えっと、いつまで?」
「君が本当の愛を知るまで」
まだ半分ポカンとしている花純に、光星は「よろしくね」と微笑んだ。
「うん、なに?」
「私も、上条社長のことが気になっていました。お会いするたびにドキドキして、嬉しくて……」
光星は思わず頬を緩める。
それじゃあ、と口を開こうとした時、花純が言葉を続けた。
「ですが、おつき合いはお断りさせてください」
思わずハッと息を呑む。
「どうして?」とかろうじて尋ねた。
「いずれ私は、あなたを失望させてしまうからです。だったら最初からおつき合いしない方が、ご迷惑にならないと思うので」
「……ごめん。言ってる意味がよく分からない。どういうこと?」
真剣に問うと、花純は思い切ったように顔を上げた。
「私の中で、恋愛は大して大きな割合を占めていないんです。若い頃はそれでもおつき合い出来ましたが、この歳になるとそうもいきません。お相手の方はおつき合いの先に、結婚を意識するかもしれないからです。だけど私は、恋愛と結婚はまったく別の感覚なんです。結婚はお互いの条件が合う人と交わす契約、みたいに捉えています。変ですよね、すみません」
小さく頭を下げる花純に、光星は言葉が出て来ない。
「私もお相手の方も、まったく結婚するつもりがないならおつき合いも考えられますが、私はいずれお見合いで結婚しようと思っています。終わりの見えたおつき合いなんて、ご迷惑になるだけですから。本当に申し訳ありません」
「ちょ、ちょっと待って」
話を終えたようにお辞儀する花純を、光星は慌てて止めた。
「そんな理由では納得出来ない」
「えっ、どうしてですか?」
「なぜつき合ってもないうちから、そう決めつけるの? つき合っていくうちに気持ちがどう変化するかなんて、今は分からないはずだ」
「ですけど、私は人より恋愛感情が乏しくて。好きになっても、このままずっと一緒に生きていきたいとは思えないんです。結婚は好きとか愛してるって感情より、条件が合う相手とする方が上手くいくと思うので」
いやいや、と光星は手を差し出す。
「君、結婚したことあるの?」
「いえ、ないです」
「それならその考えは、思い込みの範疇だ。それに恋愛感情が乏しいなんて、単なる決めつけだよ。問題はそこじゃない」
「えっと、ではどこなんですか?」
「君はまだ本物の恋愛をしていない」
花純はキョトンと首をかしげた。
「本物の、恋愛? それって、どういうことでしょう」
「それをこれから君に教える」
「はい、お願いします」
「よし、交渉成立だ。じゃあ今日からおつき合いしていこう」
「……は? え? 教えていただけるのではないのですか?」
「教えるよ。言葉ではなく、実際にね」
狐につままれたような様子の花純に、光星は笑いかける。
「とにかく試しにつき合ってみて」
「試しに、ですか? えっと、いつまで?」
「君が本当の愛を知るまで」
まだ半分ポカンとしている花純に、光星は「よろしくね」と微笑んだ。



