いよいよ梅雨入りし、じめじめした日が続く。
夏休みを前に海外旅行の予約が増え、花純たちもオフィスの業務が忙しくなった。
そんなある日。
定時を少し過ぎて退社した花純は、1階のロビーで声をかけられた。
「森川さん!」
細身のスーツ姿の若い男性が、タタッと駆け寄って来る。
黒髪を短く切り揃え、ネクタイもきちんと締めた爽やかなイケメンに、花純は首をひねった。
(え、誰だろう……)
男性は花純の前まで来ると、整った顔に笑みを浮かべる。
「お疲れっす。今帰りですか?」
聞き覚えのある声としゃべり方に、花純はぱちぱちと瞬きをしてから驚きの声を上げた。
「えっ! もしかして、滝沢くん?」
「そうっすよ。あ、そうか。出で立ち変わってますよね」
「変わりすぎだよ。どうしたの?」
「今、上の階の企業で面接受けてたんっすよ。その帰りです」
「面接? それって、就職活動ってこと?」
「そうっす。世間の就活の波はとっくに終わってますけどね。そん時は俺、妙な反抗心で就活なんかやらねえって思ってたんです。けど、やっぱ逃げててもしょうがないって思って」
そっか、と花純はしみじみと頷く。
「なんか分かる。私も大学生の時そう思ったから。どうしてこの先の人生を、みんなで一斉に今決めなきゃいけないの? って思った。タイミングなんて、人それぞれ違うものなのにって」
「あー、そう! まさにそれっす! 俺もその違和感しかなくて、就活から逃げてたんっすよね。でもいつまでもそうは言ってられないし……。森川さん、その気持ち抱えてどうやって就活したんすか?」
「実は私も世間の就活の流れに乗らなかったの。大学4年生の冬に、卒業論文書き終わってから就職先を探し始めてね……」
すると「ちょっと待って!」と滝沢が手で遮った。
「じっくり聞きたいから、バーに行ってもいい? 俺、おごるし」
「は? いやいや、こんな年下の子におごらせたりしないわよ。ごちそうする」
そして二人で50階のバーに向かった。
夏休みを前に海外旅行の予約が増え、花純たちもオフィスの業務が忙しくなった。
そんなある日。
定時を少し過ぎて退社した花純は、1階のロビーで声をかけられた。
「森川さん!」
細身のスーツ姿の若い男性が、タタッと駆け寄って来る。
黒髪を短く切り揃え、ネクタイもきちんと締めた爽やかなイケメンに、花純は首をひねった。
(え、誰だろう……)
男性は花純の前まで来ると、整った顔に笑みを浮かべる。
「お疲れっす。今帰りですか?」
聞き覚えのある声としゃべり方に、花純はぱちぱちと瞬きをしてから驚きの声を上げた。
「えっ! もしかして、滝沢くん?」
「そうっすよ。あ、そうか。出で立ち変わってますよね」
「変わりすぎだよ。どうしたの?」
「今、上の階の企業で面接受けてたんっすよ。その帰りです」
「面接? それって、就職活動ってこと?」
「そうっす。世間の就活の波はとっくに終わってますけどね。そん時は俺、妙な反抗心で就活なんかやらねえって思ってたんです。けど、やっぱ逃げててもしょうがないって思って」
そっか、と花純はしみじみと頷く。
「なんか分かる。私も大学生の時そう思ったから。どうしてこの先の人生を、みんなで一斉に今決めなきゃいけないの? って思った。タイミングなんて、人それぞれ違うものなのにって」
「あー、そう! まさにそれっす! 俺もその違和感しかなくて、就活から逃げてたんっすよね。でもいつまでもそうは言ってられないし……。森川さん、その気持ち抱えてどうやって就活したんすか?」
「実は私も世間の就活の流れに乗らなかったの。大学4年生の冬に、卒業論文書き終わってから就職先を探し始めてね……」
すると「ちょっと待って!」と滝沢が手で遮った。
「じっくり聞きたいから、バーに行ってもいい? 俺、おごるし」
「は? いやいや、こんな年下の子におごらせたりしないわよ。ごちそうする」
そして二人で50階のバーに向かった。



