本当の愛を知るまでは

5月の下旬になると、気温の高い日が続いた。

(今日も暑くなりそう。冷たい飲み物でも買っておこうかな)

いつものように朝の7時過ぎに出社した花純は、低層階エレベーターに乗り、5階で降りる。
開店直後のガランとしたカフェを覗くと、カウンターの中にいる滝沢の姿が見えた。

「おはよう、滝沢くん」
「森川さん! おはようっす。この時間に来るの、珍しいですね」
「うん。暑いからアイスラテ買ってからオフィスに行こうと思って」
「アイスラテっすね。グランデにします?」
「うん、そうする」

会計を済ませると、ラテを作る滝沢の手元をその場から眺める。

「なんか……かっこいいね」
「は? 何がっすか?」
「男の人が手際良くラテ作るのが、妙にかっこいい。滝沢くんみたいな今どきの若者がテキパキしてると、特に」
「森川さん、何フェチなの? それ」
「え、なんだろ。滝沢フェチ」
「ぶはっ! ちょっと、手元狂うからやめて」

照れたように真顔を作って、滝沢はスチームミルクをマシンで注ぐ。

「このカフェの仕事、長いの?」
「んー、そうっすね。高校の時からだから、7年目かな」

7年目!?と、花純は驚く。

「私のキャリアと同じ? すごーい!同期じゃない」
「ぶはっ! だから笑わせんなって。はい、アイスグランデラテ。ミルクマシマシね」
「ありがとう!」

笑顔で受け取ると、あれ?と後ろから声がした。

「珍しい顔ぶれだな」
「上条さん! おはようございまっす」
「おはよう、滝沢くん。いつもの頼むよ」
「アイスブレンドっすね。毎度ー!」

光星はピッとタッチ決済を済ませると、コンディメントバーでシナモンパウダーをラテに載せている花純にも声をかける。

「おはよう、森川さん」
「おはようございます、上条社長」
「今日はエレベーターホールで会わないなと思ってたら、ここに来てたんだね」
「はい、暑さに負けて冷たいドリンクを買いに」
「確かに、今日も暑くなりそうだもんな」

カウンターに軽く肘を載せて、光星は窓から射し込む日差しに目を細めた。

「いつでもオフィスにデリバリーしますよ。上条さんも、森川さんも」

そう言って滝沢が光星にドリンクを差し出す。

「ありがとう、またお願いさせてくれ」

光星がドリンクを手に歩き出し、花純も「またね、ありがとう」と滝沢に手を振ってカフェを出た。