本当の愛を知るまでは

二人で肩を並べ、他には誰もいない川沿いを歩く。

「あの写真は、あそこの橋の上から撮りました」
「へえ、行ってみよう」

小さな橋の真ん中に立ち、川を見下ろした。

「なんて綺麗なんだろう。言葉を失くすよ」
「ええ、本当に」

川の両側からせり出した桜の枝から、たくさんの花びらが川面に舞い落ち、川をピンク一色に染めている。

「こぼれ桜の、花の浮き橋ですね」
「ああ。その川を照らす花あかりも美しい」

言葉もなく、二人静かに魅入る。
日常の世界から離れ、時間も場所も忘れる感覚。
時が止まったような、どこかにタイムスリップしたような気分になった。

「こうしていると、何千年も昔の人と心が通い合う気がするよ」
「本当ですね。時代が違っても、この美しさに心奪われる気持ちは一緒」
「昔の人が残した桜の言葉は、今も受け継がれている。花霞、桜吹雪、桜影……」
「ふふふ。花衣や、あなたのような桜人(さくらびと)とか?」
「それは君もだよ、花純」

え……、と花純は光星を見上げる。

「純粋な花。君の名刺を見た時に、なんて素敵な名前だろうと思った」

そう言って花純を振り向き、優しく微笑む。
花純は頬を赤らめてうつむいた。

「それは、上条社長だってそうです。光る星、素敵ですね」
「そんなふうに褒められたのは初めてだ」
「そうなんですか? とても綺麗なお名前なのに」
「今までは名乗るのがどこか気恥ずかしかった。だけど君の名前とお揃いみたいで、今は嬉しい」

二人で顔を見合わせてから、また桜を愛でる。

「綺麗な星も見えますね」
「ああ、それに月も。桜月夜だな」
「ええ」

声を潜めて桜を見上げながら、二人静かに時の流れに身を委ねていた。