本当の愛を知るまでは

レストランを出ると、少し外を散歩する。
踏みしめる雪はキュッと音を立て、その感覚に花純ははしゃいだ声を上げた。

「楽しい! 光星さん、足あとつけよう」
「はいはい、花純ちゃん」

光星も笑って花純のあとを歩いた。
二人で振り返り、足あとを見つめる。

「光星さんの足、大きいね。歩幅も広いし」
「花純ちゃんの足は小っちゃくて可愛いね。ちょこまかしてるし」
「もう! 光星さん、ずっと私を子ども扱いしてる」
「だってここに来ると、花純は子どもみたいに可愛くはしゃぐからな」

むくれる花純の肩を抱いて、光星はそっと頬に口づけた。

「これからもずっと一緒に歩いて行こう。こうやって、寄り添いながら」
「はい、光星さん」

二人は肩を寄せ合い、足あとを残しながら部屋へと戻った。

「寒かった! 今コーヒー淹れますね」

暖かい部屋でソファに座り、コーヒーを飲む。

「どうしよう。テラスの露天風呂に入りたいけど、さすがに寒いかな」

窓の外を見つめて花純が呟いた時だった。

「花純」

ふいに呼ばれて花純は振り返る。
次の瞬間、驚いて目を見開いた。

「えっ……」
「花純、これを受け取ってほしい」

光星が差し出していたのは、ブルーのリングケース。
中央の指輪にはまばゆいダイヤモンドが輝いていた。

「これって……」
「花純、俺は最初に君にこう言った。『試しにつき合おう、君に本物の恋愛を教える』と。あの時は、君が本当の愛を知るまでは諦めない、そう思っていた。だけど今はこう思う。あの時の自分は、本物の恋愛も本当の愛も、何一つ分かっていなかった。それを教えてくれたのは花純、君だよ」
「光星さん……」
「君が一緒にいてくれるだけで心が安らぎ、君が楽しそうにしていると世界が輝いて見えた。君が微笑んでくれると胸が切なく痛み、君を抱きしめると愛しさが込み上げてきた。これまで知らなかった感情が自分の中に次々と芽生えたんだ。そして……」

光星はうつむいて言葉を止める。

「人生で最も辛い時に、花純は俺のそばで俺の心を支え続けてくれた。何もしてやれないからと君を遠ざけようとした俺に、花純は今こそ一緒にいなければいけないと言ってくれた。どれほど心強く、どれほど救われたか分からない。花純の存在が俺の全てだ。どれだけ言葉を重ねても言い尽くせないほど、俺は花純を愛している」
「光星さん……、私もです。今まで誰かとこんなにも心を通わせたことはありませんでした。恋愛なんてしなくていい、結婚は条件の合う人とって、ずっと本気で思っていました。だけどあなたと過ごす時間は、そんな私を変えてくれました。あなたが自分の身を挺して私を守ってくれた時、こんなにも愛されているんだと知りました。あなたが辛い時は、絶対にそばであなたを支えるんだって、自然と強い気持ちが湧いてきました。私の心の奥深くから、私はあなたを愛しています。この気持ちは間違いなく本物です」
「花純……。俺たちは本当の愛で結ばれている。この先もずっと、離れることなんて出来ない。結婚しよう、花純」
「はい。これからもずっと、あなたのそばが私のいるべき場所です。結婚してください、光星さん」

二人で見つめ合い、込み上げる涙を堪えながら微笑む。
胸が震え、幸せでいっぱいになり、互いに求め合って抱きしめた。

「花純、ありがとう。心から君を愛している」
「私もです、光星さん。誰よりもあなただけを愛しています」

やがて光星はそっと身体を離すと、花純の左手薬指にゆっくりと指輪をはめる。

「俺の愛の証として、これを君に贈る」

そう言って花純の手をすくい、指輪にキスをした。
花純は腕を伸ばしてギュッと光星に抱きつく。

「ありがとう、光星さん。私にたくさんの幸せをくれて」
「まだまだだよ、もっともっと幸せにしてみせるから」
「うん。私もあなたを幸せにしたい」
「花純がそばにいてくれる限り、俺はずっと幸せでいられる」

見つめ合って交わすキス。
抱きしめ合って確かめる温もり。
心に届く互いの深い愛情。

ようやく二人は本当の愛を知った。