本当の愛を知るまでは

「部長、本日の各支店長ミーティングは第2会議室を押さえてあります」
「ありがとう」

始業時間になり朝礼が終わると、花純は部長に今日の予定を確認した。

「10時から12までの2時間で大丈夫でしたか?」
「うーん、そうだな。今日は新オフィスのお披露目も兼ねた軽い打ち合わせだから、充分だ。そうそう、このビルの5階のカフェが、オフィスにデリバリーサービスしてくれるらしいよ。今回試しに、コーヒーを会議室に届けてもらおうかと思ってるんだ」
「承知しました。私が手配しておきますね」
「助かるよ。いつもありがとう、森川さん」
「いいえ。それでは」

花純はデスクに戻ると、会議に出席する人数を確認する。

(えっと、関東支部の各支店から1名ずつと、部長と課長、主任の私と千鶴ちゃんと原くんの3人。合計25人で合ってるよね)

電話でオーダーしようかとも思ったが、忙しくてそれどころではないかもしれないと思い、花純は直接カフェに行って相談することにした。
フロアマップで確認してから5階に下りる。

(わあ、オシャレなカフェだな。外国みたいな雰囲気)

広い店内は内装も凝っていて、落ち着いた雰囲気のソファ席や窓に面した明るいカウンター席、賑やかにおしゃべり出来る丸テーブルなど、色んなシチュエーションで楽しめそうだった。
それなりに席は埋まっているが、注文カウンターは空いている。
せっかく来たのだからと、花純はブラックボードに書かれたメニューを見上げてオーダーした。

「ホットのカフェラテをトールでお願いします」
「かしこまりました」

レジのスタッフは、今朝オフィスに届けに来てくれた若い男の子だった。

「今朝はありがとうございました。とっても美味しかったです」
「え? ああ! シリウストラベルの」
「そうです。ごちそうさまでした」
「いや、それが、別にうちの店のサービスじゃなくてですね……。口止めされたんですけど、上条さんから頼まれたんです」

花純は思わず吹き出す。

「口止めされたのに言っちゃダメじゃない」
「あ! しまった。内緒でお願いします」

男の子は両手を顔の前で合わせた。

「ええ、大丈夫。私も分かってたから」
「そうなんですか? 上条さん、気遣い上手ですもんね。あんなにかっこいいのにやることがかっこいいし」
「ふふっ。それを言うなら、やることもかっこいい、でしょ?」
「ああ、そっか。とにかくかっこいいんですよ。憧れるなあ。俺、男なのに上条さんが買いに来ると、うひゃってテンション上がって。女子の気持ちが分かります」
「ふふふ、そうなのね。って、肝心の用事を忘れるところだったわ。えっと、オフィスにコーヒーのデリバリーをお願い出来ますか?」
「出来ますよ。上条さんもよく頼んでくれるんですよねー。あの社長室に届けに行くの、俺好きなんですよ。って、俺も肝心のオーダー忘れてました。ちょっと待っててください」

そう言うと男の子は、カウンターの別のスタッフに「オーダー、トールホットラテ」と伝えて花純の会計をする。

「それで、コーヒーデリバリーですよね。えっと、時間と場所と何人分かをおうかがいします」
「39階の第2会議室に25人分、9時50分にお願いします。あんまり時間がないけど、大丈夫?」
「30分後ですね、大丈夫ですよ。お会計は今でもいいですか?」
「ええ、もちろん」

もう一度会計を済ませると、男の子は領収書とデリバリーのオーダー控えを花純に手渡した。

「それでは後ほどお届けに上がります。滝沢(たきざわ)が承りました」
「よろしくお願いします。私は森川と申します。何かあればこちらにご連絡を」

名刺を差し出し、カフェラテを受け取ってから、花純はオフィスに戻った。