本当の愛を知るまでは

『花純、もうマンションに着いた?』

22時になると、光星から電話がかかってきた。
 
「はい。光星さんは? 何してたんですか?」
『朝食食べてた。こっちは朝なんだ』
「そうなんですね。今日、50階のバーで飲んで帰って来たんです。千鶴ちゃんと原くんと、滝沢くんも一緒に」
『あ、そう……なんだ。大丈夫だった?』
「大丈夫って、何が?」
『いや、別に……』

珍しく言葉を濁す光星に、花純はふっと笑みをもらす。

「光星さん、私あなたのことが大好きです」
『えっ……』
「色々、気になることとか心配事とかあったんですけど、滝沢くんと原くんに言われました。心配する必要ない、変な考えに惑わされるなって。だからこれからは勝手な心配はせずに、光星さんの言葉だけを信じます」
『花純……、俺も花純を信じる。俺のことを好きだと言ってくれる花純の言葉を。俺も心から君が好きだよ』

花純は嬉しさに微笑んだ。

「光星さん」
『なに?』
「離れていても、ううん、離れているからこそ、あなたと更に絆が深まった気がします」
『そうだな。そんなふうに言ってくれる花純が愛おしい。早く会いたくてたまらなくなるよ』
「私もです」
『帰ったら片時も離してやらないから、覚悟しておいて』

耳の奥に響く光星の艶のある声に、花純は真っ赤になる。

「電話でそういうこと言うの、ずるいです」
『どうして?』
「だって……、あなたに触れたくなるから」

光星が息を呑むのが分かった。

『花純こそ反則だ。普段は恥ずかしがってそんな言葉言ってくれないのに、会えないこの状況で言われるなんて……。はあ、飛行機飛び乗って帰ろうかな』
「だ、ダメです! ちゃんとお仕事しないと」
『そうだな。少しでも早く帰れるように、さっさと終わらせてやる。じゃあな、花純』
「はい、お仕事がんばってください」
『ありがとう。おやすみ、良い夢をね』

通話を終えると、まだドキドキとする胸に手を当てる。

(こんなので私、大丈夫かな? 次に光星さんに会ったら、もう恥ずかしくて目も合わせられないんじゃ……。まるで高校生、ううん、中学生みたい)

いくつになっても誰かを好きになる気持ちは変わらないんだな、と思いながら、花純は甘酸っぱい気持ちを抱えていた。