本当の愛を知るまでは

「花純、やっと二人きりになれた」

マンションに帰ってくると、光星は玄関を入るなり花純を抱きしめてキスをする。

「ん……、光星さん。ここ、玄関よ?」
「だから?」

光星は花純を壁に押し付けると、両手を顔の横について花純を囲った。

「花純があまりに綺麗で、手の届かない存在に思えたんだ。ちゃんと分からせてほしい、花純は俺だけのものだって」

そしてまた熱く唇を奪う。
何度も繰り返されるキスに、花純の身体から力が抜け、くずおれそうになったところを光星が抱き留めた。

「ごめん……。余裕がなさすぎだな、俺。上がろうか」
「はい」

靴を脱いで上がると、花純は部屋に着替えに行く。
だが光星に後ろから抱きすくめられた。

「花純、もう少しそのままでいて。俺だけの為に」
「はい……」
「ワインでも開けようか。パーティーで飲めなかったから」

ソファに並んで座り、ワイングラスを手に肩を寄せ合う。

そう言えば、とふと花純は思い出した。

(私、このマンションに来てからずっと、光星さんと一緒に過ごしてる)

光星が用意してくれた部屋には、着替える時にしか行かない。
夜も光星と同じベッドで寝ていた。

(誰かと一緒に暮らすなんて無理だと思ってたのに……)

自分の気持ちの変化に嬉しくなった時、光星のスマートフォンにメッセージが届いた。
チェックした光星が、難しい顔のまま黙っている。

「光星さん? どうかした?」
「いや、アンドリューからなんだけど……」
「うん、なんて?」
「アプリ開発のプロジェクトを正式に立ち上げるから、来週アメリカに一緒に行ってほしいって」
「そう。さすがは行動が早いのね」

花純が感心するが、光星は表情を曇らせたままだ。

「光星さん? 何か心配事でも?」
「ああ、花純が心配だ」

は? と花純は固まる。

「私の何が心配なの?」
「そばにいてやれないから」
「そんな。私、子どもじゃないです。今までだってずっとひとり暮らししてきたし」
「そうだけど……。花純は寂しくないの?」
「ずっと離れるわけじゃないでしょう? 何日間?」
「多分、1週間ほど」

そう言うと光星はため息をつく。

「1週間も花純に会えないなんて」
「光星さんたら。お仕事だもん、仕方ないでしょ? それに、電話やメッセージだって毎日出来るんだから」
「そうだけど……。俺はこんなに寂しいのに、花純は平気そうなのが更に寂しい」

うーん、と花純は視線をそらす。

「こういう時、行かないでって泣いてすがる方が男の人は嬉しいのよね?」

すると光星は、ハッと顔を上げた。

「ごめん、違う。快く送り出してくれる花純が好きだ。俺こそ、子どもっぽいこと言ってすまなかった」
「ううん。もちろん私も寂しいけど、大切なお仕事だから気兼ねなく行ってきてほしいの。1週間で私たちの仲はどうこうならないって思うから」
「ああ、そうだな。俺もそう思う。花純、声が聞きたくなったらいつでも電話してきて。俺も時間があれば必ずかけるから」
「はい」

微笑み合うと、光星は優しく花純を抱き寄せてキスをする。
そのままソファに押し倒した。

「ドレス姿の花純はとびきり綺麗だけど、素肌のままの花純はもっともっと綺麗」

耳元でささやかれ、花純は真っ赤になる。
何度もキスを落とされ、夢中で応えているうちにドレスのファスナーを下げられた。
スルリとドレスが肩から落とされ、荒々しくシャツを脱ぎ捨てた光星と直に肌を合わせる。

「あったかい……」

大きな胸に抱きしめられ、光星の体温を感じて、花純は光星の背にギュッと腕を回した。

「花純、そんなに煽るな。理性が飛ぶ」
「だって、気持ち良くて」
「だから、煽るなってば」

光星は眉根をギュッと寄せて何かを堪えると、花純の身体を抱き上げて寝室へと向かう。
ベッドに下ろした花純を組み敷くと、気持ちをぶつけるように身体中のあちこちにキスの雨を降らせた。

「花純、今夜は優しくしてやれない。受け止めてくれる?」
「……うん」

涙目で小さく頷く花純に、光星は切なげに顔を歪めて覆いかぶさる。
何も考えられず、ただ込み上げる気持ちのまま、二人はひと晩中互いを求め合った。