そして、雪が積もった十二月。
施設に行くことが決まっていたその日に、俺は大地さんと出会った。
「遊佐 伊織くん、だね?」
「……」
「毎日小学校に行かず、この辺りを歩き回っている子供というのは……君で間違いないかな?」
今思えば、大安寺組が仕切っているこの街で、子供が毎日一人で出歩いているというウワサが出回って様子を見に来てくれたのだろう。
けれど、あのときの俺にはもう、何も感じることができなくなっていた。
空腹も、寒さも、感情も、すべて〝無〟だった。
だから、『今日からワシがお前のお父さんになってやろう』と言われたときも、何も感じなかった。
ただ、両親から教わったお礼の言葉を口から吐き出すだけだった。
『新しい家族だ』と言って大安寺の家の人達を紹介されたときも、俺の感情が揺れることはなくて。
目を細めて、口の両端をクッと上げて笑った顔を作りながら『よろしくお願いします』と言って頭を下げた。
俺はいつからか、自分の気持ちを失っていた。
わがままを言って両親を失ってから、俺は自分の感情を表に出すことが悪いことだと思っていた。
周りから感情を持たない機械のようなガキと言われても、気味が悪いと言われても、それさえも無だった。
──美桜ちゃん、君に出会うまでは。



