何が起こったのか、さっぱり理解できなかった。
どうして父と母が、病院で眠ったまま目を覚さないのか。
どうして今まで住んでいた家を売られてしまったのか。
どうして誰も、自分を引き取ってくれる人がいないのか。
「いやぁ、伊織くんには悪いけど、施設に行ってもらうしか……」
六月十五日。俺の、六歳の誕生日。
あの日、俺は一夜にしてすべてを失った。
仕事熱心な父も、料理上手な母も、今まで住んできた家も、すべて──。
「(僕がおもちゃを買ってきてだなんて……わがままを言ったからだ)」
だから、こうして自分の身に不幸が起こることは当然の罰なんだと幼いながらに思っていた。
父と母にわがままを言って困らせて、死に追いやってしまった俺の罰。
ご飯を作ってくれる人いないのも、住む家がなくなることも。
面倒を見てくれる人がいないのも、施設に預けられることも、全部、全部、俺がわがままを言ったせい。
「(こういうの、なんて言うんだっけ……)」
小学生になったなったばかりの俺に、父が買ってくれた電子辞書。
この電子辞書が、唯一俺の長すぎる一日の時間を潰してくれるアイテムだった。
慣れた手つきで電子辞書を開いて、必死に検索して画面に現れた文字は──……【自業自得】。
まさに自分にピッタリの言葉だと思った。



