でも、今聞きたいのはそんなことじゃない!
「違う、私のことじゃないの!伊織のことを聞かせてよ!」
「え?」
「私は伊織のことがもっと知りたいの!だって、伊織は私のことたくさん知ってるんだろうけど、私は伊織のこと何も知らないもん!そんなの不平等じゃん!」
となりに座る伊織に、グイッと距離を詰めて顔を近づけた。
すると伊織はビクッとしながら背中を逸らして、慌てて距離を取った。
「ち、近いよ美桜ちゃん」
「ほら、ちゃんと考えてみて!何かしたいことは?食べたいものは?」
「困ったな、なかなか思いつきそうにないんだけど……」
アハハ、と困り顔を浮かべる伊織に、容赦なくグイグイと言葉を投げていく。
それでも伊織は、やっぱり何も答えを出せない様子だった。
「ほら、例えば一緒にショッピングしたり、動物園とか水族館とか……あとは遊園地に行きたいとか!」
「……遊園地、か。一回も行ったことないな」
伊織がそう言葉を漏らしたとき、ピンとひらめいと!
私はこれまで一度だけ、遊園地に行ったことがある。
まだパパとママが生きていたとき、お祭りと同じで一度だけ家族旅行で連れて行ってもらったんだ。
「じゃあ伊織さ、今度の土曜日、一緒に遊園地行かない!?」
「……俺と、二人で?」
「うん!一緒に遊園地、行っちゃおうよ!」
「それは、楽しみだね」
そのとき、私は初めて伊織のいつもの優しい笑顔、以外の表情を見た気がした。



