「俺は特に趣味とか、やってみたいこともないかもしれない」
「じゃ、じゃあ食べたいものは!?」
「好き嫌いもないよ。出されたものはなんでも。……あ、毒は嫌だな流石に」
「そういう話じゃないってばぁ!」
なんだろう、この掴みどころのない感じ。
婚約者候補と呼ばれる三人の中で、正直伊織のことだけが未だに全く分からない。
いつも優しい笑顔で接してくれるけれど、一向に本心は見えないままだ。
「俺のことはそんなに深く考えないでよ、美桜ちゃん」
「……」
「そんなことより、俺は美桜ちゃんの最近の変化がすごく嬉しいって思うよ」
「私の、変化?」
「うん。出会ったころはあまり笑わない子だったけど、今はよく笑ってくれる」
「そ、そうなの……かな?」
「それに会話もたくさんしてくれるようになったしね」
「なんか、恥ずかしいんだけど」
「美桜ちゃんが幸せだって感じてくれることが、俺の幸せでもあるから」
中庭のベンチに座っている伊織は、そう言ってまたにっこりと笑った。
伊織の中心にいるのは、きっと私だ。



