中庭にはおじいちゃんが好きな木や植物がたくさん植えられている。
真ん中にある桜の木は、私が生まれたときに植えてくれたものらしい。
夜風が心地よくて、きれいにライトアップされている中庭は私のお気に入りの一つだ。
「話しがあるって言っていたけど、何かあった?」
中庭についてすぐ、伊織は自らその話題を切り出した。
「あ、えっと、ごめんね!そんな大したことじゃないんだけど」
「全然大丈夫、なんでも話してごらん?」
「えっと……その、ね?伊織って、何か趣味とか、やってみたいこととかないのかなぁって!」
「趣味?」
私のその言葉に、伊織はキョトンとした顔で頭を傾げた。
「わ、私もね!危ないからっていう理由であんまり外に出たことってないんだけど!でも、今はね!やりたいこととか、行ってみたい場所はたくさんあるの」
「俺が連れて行ってあげるよ」
「ち、違う違う!そうじゃなくて、伊織が行きたいところを知りたいんだよ」
中学の授業で、人間の欲求について勉強する授業があった。
人間にはそれぞれ、睡眠だとか食欲のほかにも、やりたいことや、食べたいもの、欲しいもの、たくさんの小さな欲があると教えてもらった。
大和や陽太は、そんな自分の欲を全面的に押し出してくる。
だけど、伊織と知り合ってもう一ヶ月が過ぎているのに、伊織は欲どころか、伊織の意見や自分の気持ちすら聞いたことがなかった。



